033.落とした消しゴム

シャーペンを動かした拍子に、手の甲がぶつかって筆箱から出していた消しゴムがコロリと転がり出す。
割と長く使っているそれは、初めこそ長方形だったのに、今は角が取れて丸くなってしまっている。
球体ではないけれど、丸い部分がそれなりに広い所為なのか、不思議な安定感でコロコロと転がっていくそれ。

「わ、ちょ…」

ぽーん、とテーブルを飛び出したそれが、今度は場所を床に変えて、進んでいく。
追いかけるようにして中腰で進んでいくと、視界がどうにも床メインになってしまって。
危ないかな、と思ったところで、躓いた。

「あ」

こける―――床が近くなった、その視界に入り込んでくる2本の腕。
驚くほどにあっさりと、勢いが消えた。

「危ないなぁ…何してるんだ?」
「…陸」

部屋の外にいたはずの陸が、助けてくれていた。
この家の中にいるのは彼と私だけなんだから、助けてくれたのが彼以外の人間であるはずがないのだけれど。
他の選手よりは小柄で、細く見えるその腕も、私を支えるには十分すぎる。

「陸、部屋の外にいなかったっけ?」
「あぁ、今入ってきたとこ。ドアを開けたらこけかけてるから、びっくりした」

ドアからの距離はそう遠くはないけれど、反射神経が良くなければこけるまでに駆けつけるなんて、無理だと思う。
やっぱり彼はエースなんだなぁと改めて感じながら、支えてくれている彼を見上げる。
そうして、姿勢を整えて立ち上がった。

「消しゴムが転がっちゃって」
「…あぁ、もしかして…あれ?」

きょろ、と足元を見回した彼が、少し遠い位置にある消しゴムを指差す。
ぺたりと床で止まっているそれは、少し手が当たって転がったにしては、随分な位置にあった。
不思議に思って首を傾げると、それを拾ってくれた陸が苦笑を浮かべる。

「走った時に、蹴った」
「あぁ、なるほど。別にいいよ、気にしないで」

こんな小さな消しゴムを避ける事くらい、彼にとっては造作もない事だろう。
けれど、そんな些細な動きすらも余計と判断して、真っ直ぐに駆けつけてくれたのだと思うと…胸の辺りが、ほんのりとあたたかくなった。

「ありがとう、陸」
「どういたしまして」

笑った彼の腕に抱き付く。
細身の彼だけれど、少しも姿勢を崩す事無く受け止めてくれた。

甲斐谷 陸 / 向日葵

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11.11.04