028.夏の憂鬱

「暑い…」

パタリ、と倒れ込む彼女。
どうせ倒れるなら自分の家で倒れればいいのに、なぜか彼女は一護の部屋へとやってくる。
毎年の事なので慣れたものだが、初めこそ「何でだ?」と言う疑問が消えなかった。
もちろん、彼女からの明確な答えはない。

「…そんなに暑いなら、髪でも切ったらどうだ?」
「いやよ。気に入ってるんだから」

長い黒髪、と満足気に指を通す彼女。
確かに、自慢するだけの事はあり、自他ともに認める美しい髪だ。
夏真っ盛りの今は、見た目にも暑さを助長しているけれど。

「一護の所に来ても駄目なのよね…わかってるんだけど…癖だわ」
「駄目って、何の事だよ?」
「…夏と言えば?」

床に横たわったまま、見上げるように問いかける彼女の質問への答えを探す。
夏と言えば―――

「海、か?」
「はずれー」
「祭り―――プール?」
「…思考が啓吾に浸食されてるよ、一護」

嫌な事を言われた、とばかりに眉を顰め、口を噤む彼。

「夏と言えば怪談でしょ。一護の傍なら、実体験できるから、もっと涼しくなれるかと思ったんだけどさ…」

そう言った彼女の目が、ちらりと窓の外を見る。
道行く浮遊霊が呑気に手を振っていた。

「…慣れ過ぎて、逆に駄目だわ。鬱陶しい。冬場はまぁ…いてもいなくても同じだけど、夏に見ると鬱陶しい」
「…そーかよ」
「折角の夏の風物詩で涼めないなんて…なんか勿体ないなぁ」

ごろり、とフローリングの床を転がる彼女。
暑い暑い、憂鬱だ何だと文句を言う。
薄着の彼女が寝転がれば、ただでさえ短い裾やら袖やらが際どく揺れるのだと言う事を―――彼女自身は、知らないのだろう。
一護はさりげなく視線を逸らし、深い溜め息を吐き出した。
こっちの身にもなってくれ―――彼自身の憂鬱は、ここにある。
まぁ、とりあえず。

「…アイス、食うか?」
「ありがと!」

満面の笑顔だけで、我慢でも何でも出来る気がした。

黒崎 一護

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11.10.27