026.結露ガラスにらくがき

あ、と小さく声を発する。
掃除の時間、窓を拭こうとして気付いたそれ。
小学校の頃はよく、からかい目的で黒板や机などに書かれていた―――相合傘。
それが、結露した窓の隅に、こじんまりと指跡を残していた。
誰が書いたものなのかはわからないけれど、小さく小さく…隠れるようにして書かれたそれに、何となく微笑ましさを感じてしまう。
必死に消された傘の下の部分には、誰の名前が書かれていたのだろうか。

「どうかした?」
「見て、これ」

誰のだろうね、と隣に来た翼に問いかける。
答えを求めたと言うよりは、このほんのりした気持ちを共有したかっただけだ。
指の示す先を辿り、あぁ、と納得する翼。
彼の口角がほんの少しだけ緩み、その横顔が穏やかさを帯びる。
同じ気持ちを共有できたのだと気付き、嬉しくなった。

「ガキの頃はよくやってたよね」
「うん。梅雨時とか、窓ガラスは落書きだらけだったよね」

自分では書いた覚えがないけれど、賑やか担当のクラスメイトのグループが窓際を落書き一杯にしていた。
それを思い出し、どこか懐かしい気分になる。


ふと、思いつくままに指先を伸ばし、きゅっと窓ガラスに滑らせた。
薄い結露に筋が出来る。

「何だろう…何か、ワクワクする」
「変な所で子どもっぽいね」

クスクスと笑った翼が手を伸ばしてきた。
彼の手が、窓ガラスに触れた私のそれに重なる。

「何するつもり?」
「名前でも残してあげようか?」
「やめてよ。小学生じゃないんだから」
「相合傘って歳でもないしね」
「うーん…流石に、相合傘は無理だわ」

そんな風に、笑い交じりにじゃれ合う二人は、クラスメイトから向けられるあたたかい眼差しに気付かなかった。

椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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11.10.25