024.仰向けに見上げた天井

ここはどこかしら。

そんな事を考えながら天井を見上げて、数時間。
不思議と眠気はなく、暇だからと身体を起こし、ベッドの脇にあった本棚へと向かう。
そこでふと、この場所が医務室だと言う事に気付いた。
だからどうと言う事もなく、疑問が一つ解決した程度の感想を頭の片隅に浮かべ、本棚の本を抜く。
誰の趣味なのかは知らないけれど―――意外と、面白そうな本だ。

「…何をしてるんですか」
「あら、エスト」

怪我でもしたの?と問いかけつつ、頭から足へと視線を巡らせる。
特に目立った変化はなく、答えを待つように来訪者と視線を合わせると、彼、エストは思い切り眉間にしわを寄せていた。

「倒れた人が、何をしているんですか」

怒りを抑え込むような、低い低い声。

―――あら、怒ってる。

そんな感想を抱きつつ、本を片手にベッドに戻る。

「倒れたの、私?」
「ええ、授業中に」
「どうして?記憶が曖昧なんだけど…」
「………ルルの、魔法薬が…」

言葉を濁す彼に、曖昧な記憶がほんの少しだけ取り戻されてきた。
そうだ、二人一組の実験で、私はルルとエストの隣で作業をしていて―――

「気にしなくていいわ。身体に異変はないから」
「自覚がないだけって場合もあるよ」

聞こえた第三者の声に、二人の視線がドアを見る。
そこには何かを抱えたアルバロの姿があった。
いつからいたのかはわからないが、今来たばかりと言うよりは暫く話を聞いていたような様子だ。
彼は凭れていた壁から背中を離すと、ゆったりした足取りで近付いてくる。
そして、伸ばしてきた手が、そっと額へと触れた。

「下がったみたいだけど…まだ少し高いね」
「?」
「一時は40度を超えたんだ。汗だくじゃない?」

額から手を引いた彼は、持っていたそれをベッドの上に置いた。
どうやらそれは着替えのようだ。
指摘されて初めて、身体の不快感に気付く。

「―――と言うわけで、着替えたら大人しく横になりなよ。こっちが驚くほどに心配してたんだから」
「誰が…!大体、あなたの方が」
「誰が、とは言ってないのに反応してる時点で、自覚があるって事だよね」

そう笑うと、思わず口を噤むエストの背を押してベッドから離すアルバロ。
彼を引き連れてベッドから少し距離を取ると、ベッドを囲うカーテンを引いた。
その気遣いに感謝しつつ、カーテン越しに小さく興奮するエストの血管が切れてしまわない内にと手早く服を着替える。

腕を伸ばしてカーテンを開くと、そこにはアルバロだけが残っていた。
エストは、と問えば、彼は笑みを浮かべてドアを示す。

「ゆっくり休ませろって、俺に言い残していったよ」
「そう」
「ゆっくり休めるおまじないでもしようか?」
「お生憎様、眠気が全く来ないのよ。天井を見上げるのも飽きたわ」

そう言いつつ、ベッドに横たわる。
当然の事ながら見上げた天井に変化はなく、芯に残る倦怠感を吐き出すように溜め息をつく。

「飽きないような愉快な天井にしようか?」
「…やめて」

大人しく眠るわ、とシーツを肩までかけ、くるりと丸くなる姿は、まるで猫のようだ。
アルバロは何も言わずに頭を撫でた。
一度は閉じた瞼を開き、じっと彼を見上げたけれど、結局何も言わず、また目を閉じる。
程なくして、眠りの世界へと落ちて行った。



「あなたの方が心配していたのに…よく言いますね」
「そう言うのは本人に言うもんじゃないよ、エストくん。それから、君の仕事はここにはないよ?」
「…何を」
「ルルちゃん、外でかなり落ち込んでたみたいだけど―――行かなくていいの?」
「………、……」
「まぁ、エストくんのシスコンっぷりは周知の事だからね。皆も俺も、君がここにいても気にしないけど―――」
「…付き合いきれません。姉さんの事は任せますっ」
「………素直じゃないなぁ」

アルバロ・ガレイ / Tone of time

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11.10.21