023.こっちを向いて

「ねぇねぇ、こっち向いて」

くいくい。
ベッドに腰掛け、風呂上がりで濡れた髪を拭っていると、後ろから軽く髪を引っ張られた。
そこにいるのが息子だと知っているから、何の警戒もなく振り向く。
と、頬に触れるぬくもり。

「母さん、大好きー」

「ぎゅー」なんて擬音語を口にしながら首に抱き付いてくる息子の可愛い事。
昔も可愛かったけれど、離れていた間の寂しさの所為だろうか。
最近は特に甘え方がすごい。

「今日は特に甘えるのね」
「うん」

色々と、と呟く声が聞こえたけれど、あえて追求はしない。
彼の目線の動きで、その理由がわかってしまったから。

「…髪を乾かさないと風邪を引くよ」

伸びてきた腕が息子を攫って行く。
その本心がどこにあるのかは、言うまでもないだろう。

「いい加減、甘えなくていい大人にならないとな」
「この程度で俺を引き離そうとする父さんの方が子どもだよ!」

バチッと火花が散っている。
いつもの事なので、大して気にする事もなく作業に戻った。
反抗期かしら、なんて、二人が聞けば同じ顔で表情を顰めるような事を考える。

乾かす作業が一段落した所で、彼らのやり取りもまた、一息ついたようだった。

「―――こっちを向いて?」

低い声と指先の動きが誘う。
促されるままに振り向くと、想像していた通りに唇に熱が重なった。
得意げに笑った蔵馬が、仕上げとばかりに唇を一舐めして離れる。

「寝ようか」
「そうね。ほら、おいで」

畳に敷いた布団の上に川の字になって寝転がる。
平和な時間だった。

妖狐一家 / 悠久に馳せる想い

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11.10.19