022.君がくれたもの

「どうしたの?」

じっと見つめられる視線に気付き、顔を上げる彼女。
不思議そうなその表情は、他の誰と一緒の時よりも、安らいでいるように見えるのは、僕の気の所為じゃないと思う。
少なくとも、紋章越しに伝わる彼女の感情は、とても穏やかだ。

「考えていたんだ。君がくれたものは何だろうって」
「私が…?」

考えてはみたけれど、それは漠然とした大きなもので…言葉に言い表すのは難しい。
すると、彼女もまた、考えるようにじっと、僕の方を見つめてきた。
そして、「私は…」と口を開く。

「あなたがくれたのは、世界そのものだと思う」
「世界?」

あまりにもスケールの大きな話に発展して、思わずそう問い返してしまう。
彼女は苦笑気味に笑い、説明を重ねた。

「私と言う異分子がこの世界に定着するために、貴方と言う存在が必要不可欠だった」
「あぁ…ソウル・イーターがなければ…そうだね」

全ての始まりは、この紋章だ。
納得するように頷くけれど、彼女はそれを否定した。

「それはきっかけでしかないわ。あなたが私を認めてくれるから…ここにいられる」

そんな気がするの、と。
彼女はやはり穏やかに、そう言った。

世界を渡るなんて、まるでおとぎ話のような体験をした彼女は、いつだって自分自身の存在に悩んでいた。
存在理由、と言うべきなのかもしれない。
けれど。

「そんな大した事をした覚えはないよ。ただ、僕には君が必要だった―――それだけの事」
「それが何よりも嬉しかったのよ。誰にも必要とされないのは…悲しい事だわ」
「…そうだね」

見返りも何もなく、必要だと望んでくれる人。
自分ですら一度は忌まわしいと憎んだこの紋章を共有しながらも、一度もそれを恐れなかった人。
彼女の存在がどれほど尊いものなのか…知っているからこそ、その言葉には素直に共感できた。

「…君がくれたものは、未来だね」

独りだったなら、どれほど未来に絶望しただろう。
今はまだグレミオもいるし、トランに帰ればかつての仲間たちがいる。
けれど…彼らはいずれ、天寿を全うしてこの世を去っていくだろう。
親しい人を見送るほど、辛い事はない。

「ありがとう。君がいてくれて…良かった」

独りじゃないから歩いて行ける。
引き寄せた身体は細く、けれどとても優しかった。

1主 / 水面にたゆたう波紋

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11.10.18