020.またね、と手を振ったら

傍にいるだけでは足りないこの感情を、どう伝えたらいいんだろう。
手を伸ばさなくても触れられるくらいに近い距離にいる翼に、もっと近付きたいと思ってしまう。
隣にいるだけじゃ足りない。
触れたいし、触れてほしいと…そう思う。
自分の感情が自分のものじゃない気がして、翼に気付かれないようにと小さく息を吐く。
気付かれたくない―――気付いてほしい。
今日も、心のどこかで、矛盾している。

「じゃあ、そろそろ戻るよ」

ふと翼がそう言った。
思わず、もう?と声を上げてしまってから、今の時間を確認する。
時刻は既に“明日”に変わってしまっていて、まだ、とは言えない時間だ。
翼が何かを言う前に、取り繕うように笑顔を浮かべる。

「そうだね。そろそろ寝ないと。―――また、明日ね」

自分の感情を笑顔の奥へと押し隠し、ひらりと手を振る。
途端に、翼がその表情を歪め…小さく溜め息を吐いた。
何となく、彼の言おうとしている事がわかる。

「隠せてる、なんて思ってないよね」
「…うん」

夜だって、離れたくない。
彼が少しでも離れるだけで寂しいと感じる私自身を、どうすればいいのかわからない。
戸惑いばかりで、誤魔化す事すら忘れていた。

「そんな顔されたら、部屋に戻りたくないけど…そう言うわけにもいかない…と思う」
「…うん」

告白して、付き合って、キスをして。
本能的に望んでいる次のステップは、きっと翼も同じ。
困ったような表情を浮かべるその顔が、それを物語っていた。

「固いかもしれないし、もどかしいかもしれない。でも、無責任な事だけはしたくないから」

そう言った翼の声を聞き終えるか、否か。
私の身体は、彼の腕の中にいた。

「翼…好き」
「………うん。俺も」

何かを堪えるように、何かを誤魔化すように。
抱き締める力を強くした翼に、甘えるように擦り寄る。


“次”を知るには、私たちはまだ子どもだから。

「…おやすみ」
「おやすみなさい」

唇ではなく、額に落とされたキスにも、文句は言えなかった。

椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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11.10.16