019.鏡と睨めっこ

「…随分梃子摺ってるみたいだね」

声と共に鏡に彼が映り込んで、集中していた視線をそこから外す。
ヒソカ、と名前を呼び、鏡越しに彼を見た。
腕を組み、壁にもたれた彼は、少し不機嫌に見える。
顔はいつもと変わらない笑顔なのだが…何なく、雰囲気が。

「いつからそこにいたの?」
「ずっと」

一時間くらいかな、と言う答えを聞いて、思わず首を振り向かせて時計を見た。
見上げた時計は、既に約束の時間を15分回ってしまっている。

「…ごめん。気付かなくて」
「別に構わないよ。それより…」

壁から離れた彼が近付いてくる。
そして、そっと私が握っていた髪の一房を手に取った。
それこそが、私が延々、鏡と睨めっこしていた理由。
珍しく絡まってしまった髪が、全然ほどけてくれなかったのだ。
ヒソカの指先が、絡みついた毛先を弄る。

「…もういいのよ。いい加減、切ってしまおうかと思って―――」
「駄目だよ」

言葉を遮るようにして重ねられたそれ。
それだけを言うとヒソカは、黙々と指先を動かしている。
程なくして、するり、とヒソカの指先から髪が零れ落ちた。

「すごい!あんなに時間をかけたのに…器用ね」
「奇術師に不可能はないよ」
「本当ね」

お蔭で、一部だけが短くなってしまうと言う事態を避けることが出来た。
嬉しさを隠さず、振り向いてヒソカを見上げる。
ありがとう、と言えば、彼の纏う空気から不機嫌さが消えた。
伸びてきた指先が髪を掬い、頬へと滑る。

「やっとこっちを見たね」
「…鏡に嫉妬?集中していたんだから、仕方ないでしょ」
「僕との時間も忘れて?」
「…そこは、悪かったと思ってる」

頬に触れる手の平に軽く口付け、その手を離すと、髪に手早く櫛を通した。
絡まっていた部分は少しだけ捩れてしまっているけれど、その内元通りになるだろう。

「少し遅れてしまったけど、行きましょう」

用意していたカバンを持ち上げ、彼を誘う。
差し出された手を取り、外へと繰り出した。

ヒソカ / Carpe diem

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11.10.15