014.横恋慕
私の方が彼女よりずっとずっと近くにいるのに、どうしてって思う。
クラスメイトで、同じ委員で―――部活は、流石に違うけれど。
彼女よりずっと、長い時間を共有してるはずなのに。
彼は、彼女を選んでしまった。
学校での彼は、他の人には興味ありませんって顔で、本を読んでいる姿ばかり。
本庄くんは皆に平等だったから、安心していたのかもしれない。
アメフトをしている時だって、彼は一生懸命って感じじゃなくて…義務的な様子すら感じた。
それなのに―――あの日、あの瞬間、わかってしまった。
私が安心だと思って立っていた場所が、実は薄氷の上だったんだって。
「鷹!」
土曜日は部活の生徒しか登校しない。
本庄くん見たさに図書館に本を返しに来て、グラウンドで立ち止まる。
そんな時、聞こえてきた声。
彼の事をあんな風に、親しげに「鷹」なんて呼ぶ女の子を、私は知らない。
振り向いた先に、彼女がいた。
溢れんばかりの笑顔で、少し驚くような速度で走ってくる女の子。
そして、彼女が向かう先には。
「遅かったね。混んでた?」
「ごめん。ちょっと寄り道してて」
勢いのまま腕の中に飛び込む彼女。
それを、慣れた様子であっさりと受け止める本庄くん。
ガラガラと、足元から崩壊の音が聞こえた。
「今から40ヤード測るの?」
「そう。走る?」
「んー…いいや。駅からここまで走って来たし」
「駅から…相変わらずすごいね、体力」
「うん、自慢できると思う」
こちらが無理やり繋がなくても続く会話。
ごく自然に言葉を交わす二人を見て、誰かに説明されなくてもその関係を理解した。
だって…本庄くんのあんな穏やかな表情、見た事ない。
初めて見る表情もきっと、彼女にとっては普通の物なんだろう。
人生で初めての、失恋。
これがそうなんだとわかって―――不思議と、涙は出てこなかった。
無関心な彼が、人間らしくいられる場所があるなら…それはきっと、喜べる事。
私は静かにグラウンドに背を向けた。
校門を抜け、帰路を歩く。
目元や鼻が熱くなって、頬に何かが伝う。
彼の幸せを、素直に喜ぶ事なんて―――出来ない。
だって…私は、彼が好きだから。
「…ごめ、ね」
沢山泣いて、哀しんで。
哀しかったけど、素敵な恋だったって思える日が来るといい。
だから、今だけは…少しだけ、彼女の事を嫌わせてください。
本庄 鷹 / チューリップ