013.ここから始めよう
「よく考えたら、フェアじゃないな」
不意に零した蔵馬の言葉に、紅は首を傾げた。
何がフェアじゃないと言うのか。
そんな彼女の疑問に答えるわけではなく、彼は少しだけ悩むように沈黙する。
そうして、暫くの間彼の動向を見守っていた彼女が、手元の本へと視線を戻そうとした頃。
本が、彼女の手の中から消えた。
「蔵馬?」
それを奪っていった彼を見上げ、何がしたいの、と問う。
見上げる彼女の目に、怒りはない。
しかし、意味の解らない行動への疑問はあった。
「少しの間、俺に時間をくれないか?」
「ええ、構わないわ」
どうしたの、と座り方を改めて問う彼女。
すると、蔵馬はソファーから立ち上がり、向かい側のソファーに座っていた紅の前へと膝をつく。
「紅」
真剣な声で名を呼ばれ、ドクン、と心臓が跳ねた。
今更だと思うのに、身体は正直だ。
「君が好きだから、俺と付き合ってほしい」
「………“秀一”と?」
真剣な告白が何を意味するのか。
それを理解し、確認するようにそう言った彼女に、彼は頷いた。
「今のあなたと昔のあなた…別の人だとは思っていないのに。変な所で律儀なのね」
「身体が変わってるのに、昔の関係に甘えるのはフェアじゃないだろ?」
「まぁ、あなたらしいけれど」
「それで―――答えは?」
蔵馬の言葉に、紅は微笑んだ。
「私もあなたが好きだから、答えはYesよ、秀一」
南野 秀一 / 悠久に馳せる想い