009.甘い唇
中間テストを来週に控え、熱心に…とは言えないかもしれないが、それなりの姿勢で勉強する。
口の中で転がした飴が、コロリ、と可愛らしい音を立てる。
先ほどから、一向に進まない問題集。
試験勉強を始めて30分―――早くも、壁にぶつかってしまったようだ。
さて、ここで取るべき行動は…
一、解けるまで頑張る
二、無視して次の問題に進む
三、誰かを頼る
「解けそうな気配すらないけど…このページ、出るって言ってたし」
1番、2番が除外されれば、残りは一つ。
そして、今、頼るべき相手も一人だ。
問題集にシャーペンを引っ掛け、それを片手に部屋を後にする。
「一兄なら上で勉強してると思うよ」
「そっか。上がらせてもらうね。お邪魔します」
「どうぞどうぞ!」
遊子に出迎えられ、黒崎家に入る。
もう何度も行き来している家の中は、自分の家ほどではないにせよ勝手知ったる、だ。
階段を上がり、一護の部屋をノックする。
―――返事は、ない。
「あれ?」
おかしいな、と思いつつドアを開ける。
ベッドに仰向けで倒れた一護を見て、一瞬だけ驚いた。
けれど、その胸元が呼吸に合わせて上下しているのを見て、ほっと安堵する。
足音を忍ばせてローテーブルへと近付くと、偶然にも問題集が置いてあった。
丁度いいと中を見せてもらい、厄介だった問題の途中式を書き写す。
途中式だけで、十分だった。
続きは自分で頑張ろうと、問題集を閉じたところで一護を振り向く。
部屋に入った気配に気付く様子もなく、彼は小さな寝息を立てていた。
そんなに疲れているのだろうか―――その目元に薄らと隈が出来ている事に気付く。
ベッドの脇に膝をつき、さらり、と短い髪を撫でた。
ほんの少しの身じろぎをするも、彼が起きる気配はない。
「――――」
出来心、と言うのだろうか。
いつもは受け身の自分から、なんて…彼が寝ていなければ、あり得ない事だった。
ほんの一瞬だけ唇を重ね、相変わらず起きる様子のない彼に小さく笑みを零す。
そして、彼を起こす事もなく、部屋を出て行った。
「………甘ぇっつーの…」
掠れた呟きは、届かない。
黒崎 一護