005.唇に指を押し当てて
手入れされていない傷だらけの手。
この細い手が、たった一人で孤独に耐えていたのだと思うと、どうしようもない感情が込み上げる。
何を言えばいいのかわからない。
ただ、何かを叫びたいと思った事は確かだった。
これまでの不足を全て補うかのように、彼女はひたすら眠る。
衰弱した身体には睡眠以上に重要なものが数多く存在していたけれど、船医は黙って首を振った。
そして、細い腕を取って点滴の針を刺し、部屋を後にする。
「ついててやれよ、エース」
船医が言い残した言葉を違えるつもりはない。
元より、エースは彼女の傍を離れようと考えていない。
ポタリ、ポタリ、と点滴が落ちる。
彼女の身体には、その白い肌を覆い隠すように、あちらこちらに包帯が巻かれていた。
傷が残るかもしれないと苦々しく呟いた船医の声は、悔しげだった。
しかし…呟くだけにとどめたのは、きっとわかっていたからなのだろう。
誰よりもそれを悔しいと、許せないと感じているのは、他でもないエース自身なのだと。
自由になっている手を取り、傷付いた指先にそっと唇を押し当てる。
必死に伸ばしていたであろうこの手を、見つけ出す事が出来なかった。
「ごめん。それから―――」
生きていてくれて、ありがとう。
助ける事も、許しを請う事も、愛する事も。
彼女が生きてくれているからこそ、出来る事だ。
眠りつづける彼女を見つめ、もう一度、その指先に口付けた。
ポートガス・D・エース / Black Cat