002.五分遅れ
家から待ち合わせ場所までは、のんびり歩いて15分。
約束の時間まで、あと30分。
早めの行動を取ってしまうのはいつものことで、腕時計を見下ろし、小さく息を吐く。
「…少し早く着きすぎるわね」
もう、その角を曲がってしまえば、待ち合わせ場所についてしまう。
思ったよりも早く朝の仕事が終わってしまって、準備も出来てしまったので家を出たまでは良かった。
太陽は徐々に高くなり始めているけれど、午前中の空気はまだまだ新鮮で心地良い。
それを楽しみながら歩く足は、思ったよりも早かったらしい。
待つこと自体は嫌いじゃない。
ただ彼が、待たせたみたいだね、と申し訳なさそうに苦笑するから。
最近は彼よりも先に着かないようにしていたのだが…出掛けること自体が久し振りだから、時間配分を間違えてしまった。
だからと言って角を曲がらずに待つと言うのもおかしな話だ。
今回は仕方ない、そう思う事にして、足を進めて角を曲がる。
足元に落としていた視線を上げて、待ち合わせ場所である噴水へと視線を向けると、そこには。
「…蔵馬?」
遠目だが、間違えるはずがない。
軽く瞬きをして、もう一度、腕時計を確認した。
時計の針が示す時刻は、待ち合わせの25分前。
「時計が間違っているって事はないわよね。それとも待ち合わせ時間を間違えた…?」
そこを疑い始めた彼女は、自然とその足を止めていた。
何かに促されるようにして、手元の本に視線を落としていた彼が顔を上げる。
そこにいる事に気付いていたかのような、迷いのない動きで彼の目が彼女を捉えた。
その目が驚いたように見開かれるのを見て、気付いていたわけではないと理解する。
彼女がゆっくりと彼に近付いた。
「…早いね」
「そのままそっくり返すわ。約束の時間を間違えた?10時だと思っていたんだけど」
「いや、10時で合ってるよ」
「…いつからここに?」
本を読む動作がかなり落ち着いていたことから、ほんの数秒前ではないだろうと感じた。
彼女の問いに、彼は肩を竦める。
「早くに目が覚めただけだよ」
「いつからいたの?」
「…5分くらい前かな」
「…お互いに早め早めに動いていたら、待ち合わせの意味がないわね」
「同感だ。次からは迎えに行くことにするよ」
「…ええ、その方が良さそう。私が行ってもいいけれど…」
「そこは見栄を張らせてほしいな」
「…そう言うと思ったから、納得しておくわ」
彼女が小さく笑うと、蔵馬は本を閉じて立ち上がった。
すらりとした長身の二人が並べば、まるで写真撮影か何かかと周囲の視線が引き寄せられていく。
二人は周囲の視線を気にする事無く、どちらともなく歩き出した。
南野 秀一 / 悠久に馳せる想い