098.無様にも縋りついて、でも振り切られて

「お願いだからー!!!」

バタバタバタバタ…と廊下を走っていく足音。
本来であれば、「廊下を走るな!」と厳重注意する先生たちも思わず廊下の端に避けてしまうような、まるで暴れ牛の暴走のような一行。
小さな影が走り、その後に続く盛大な足音。

「ぜーったい駄目です!土日だけは駄目ー!!」
「お願い!!今回の試合は負けられないのよ!!」
「それ、トーナメントとか一切関係ない、先輩たちの確執の試合ですよね!?嫌です!!」

トーナメントに進むか、終わるか。
そんな試合だったならば、多少考える余地はあったのかもしれない。
もちろん、結果は変わらないだろうから、あくまで「考える」だけだが。
しかし、今回の試合は長年…それこそ、先輩の先輩の先輩あたりから続く確執への決着だ。
彼女にとっては無関係も甚だしい。

「いいわ、捕まえたら試合に出てもらうからね!!」
「ちょ…勝手に決めないで下さいよ!」

絶対行きませんよ!?と声を上げつつも、速度は落とさない。
明らかに余裕の彼女に対し、追いかける側は既に体力が底を見せ始めている。
そもそも、速度自体も突き放さない程度に手加減していると気付いたのは、傍観者である廊下の隅に追いやられている生徒たちだ。
必死な本人たちは気付かない。

「…わかりました。学校から出たら引いてくださいよ!」

そう言うと、彼女は猛然と速度を上げた。
先ほどまでの、ギリギリ引き離されない速度ではなく、本気の走り。
そこで漸く、手加減してくれていたのだと気付く彼女らだが、後には引けない。

「荷物を取りに行くのは確実なんだから、教室に先回りよ!」

部長の指示の元、足音荒く嵐のように走り去っていった。





ガラッとドアを開け、真っ直ぐに自分の席へと向かう。
隣の席のセナが驚いたように彼女を見た。
教室を飛び出した時に途中だった日誌は、まだそんなに進んでいないようだ。

「何で戻ってきたの?」
「カバン、置いて帰るわけにいかないから。携帯入ってるし」
「でも、追いかけられてたんじゃ…」
「うん、すぐに帰る―――」
「居ましたよ、部長!!」

前後両方のドアにわらっと群がる部員たち。
彼女らの勢いに、ヒィ、と竦むセナ。
彼女は気にした様子もなく、携帯を開き、メールが届いていないと確認する。

「もう逃げられないわよ、キキ!」
「大人しく―――」
「セナ、戸締りよろしくね」

にこりと笑うと、彼女は窓ガラスを開けた。
え?と全員が目を丸くする中、当然の事のように窓枠に足をかけ、飛び降りた。

「キキ――――!?!?」

その場にいた全員で窓際に駆け寄る。
その視線を一身に浴びたまま、彼女は対して姿勢を崩す事もなく軽やかに地面に降り立った。
そして、窓を見上げて笑顔を一つ。

「この土日だけは、いくらお菓子を積まれても駄目なんです。ごめんね、先輩」

笑ってそう言うと、彼女はそこから玄関へと向かった。
律儀な事だが、靴を履きかえるためだろう。





グラウンドを横切る途中。

「ケケケ。逃げ延びやがったか」
「妖一先輩」
「テメーが一度でも土日の約束より助っ人を優先したら、それをネタにするつもりだったんだがなぁ」
「ありえませんって。私がこの日をどれだけ楽しみに生きてるか。ルール違反は駄目ですよ?」
「この時期に戦力を損なう事をするわけねぇだろ」
「うん。先輩のそう言うはっきりした所、イイと思います。長所ですよね」


(長所!?)
(“あの”ヒル魔の長所!?)
(ありえねぇよ!どこが長所だよ!?)
(長所とか言えるお前がすげーよ!!)

思っていても口に出さないのは、学習能力のなせる業である。

チューリップ

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11.09.09