095.気付けば終わる、そんな関係
人の気配が薄れた夜道。
マンションまでの道は大通りに沿っており、街灯が夜道を照らしてくれる。
そんな中を、自転車を押す流川と共に歩く毎日。
何気ない会話の殆どは彼女から発せられるもので、時折短く答えるのは流川。
彼女の方もお喋りと言うわけではないから、自然と沈黙が続く日もある。
けれど、その沈黙を苦痛だと感じた事は、ない。
寧ろ何を話さなくても、隣に居られる事こそが、二人の一番自然な形だった。
「…続くと…いいのにな」
「ん?」
思考が口から零れ落ちた。
こちらを見た流川に気付き、取り繕うように何でもないと誤魔化す彼女。
何かありますと言っているような態度だが、追求する彼ではない。
興味がないのではなく、彼女が話そうとしない事は聞かないと決めているだけ。
けれど、その想いは彼女には逆の意味へと捉えられてしまっている。
「(…無関心…か)」
そりゃそうよね、と自嘲の笑みを隠す。
そう言う関係だと割り切るべきなのだ、それを望んだのは自分なのだから。
それなのに―――人とは、何と強欲なのだろうか。
“次”や“これから”を望む自分自身に、苦笑した。
彼がこの関係の無意味さに気付く時、二人の関係は終わる。
彼女自身はそう確信しているし、そうなった時に縋りつくまいと覚悟を決めている。
例え、胸が引き裂かれるような想いをしようと、拳を握って自制すると決めたのだ。
哀しみの代わりに得た時間は、自分にとってかけがえのないものだったから。
マンションの下へと辿り着き、顔を上げて笑顔を浮かべる。
「いつもありがとう。気を付けてね?」
「ああ」
「…途中で寝ちゃ駄目よ、危ないから」
「…わかってる」
返事が不安な所はあえて追求するまい。
彼女はひらりと手を振り、未練を断ち切る様に彼に背を向け、マンションのエントランスを歩いた。
流川 楓 / 君と歩いた軌跡