093.君は酷いひと
そう言うと、彼女はきょとんと瞬きをした。
理解の速い彼女の事だから、わからないと言うわけではないだろう。
「“君は酷いひとだね”って………」
―――あなたにだけは言われたくないわね。
うん、冷静な切り返しだ。
それでこそ君だ、と心中で笑う。
「君も十分素質あると思うよ?さっきの対応とか」
「さっき…?」
「さっき別れた彼。何か言おうとしてたみたいだけど?」
そう言うと、彼女はそうなの?と言いたげな表情を浮かべる。
たぶんそうだろうとは思っていたけれど―――なるほど、あれが素の反応か。
「あんまり歯切れが悪いから、言うつもりがないものだと思っていたわ。だから逆に、傷つけずに済むかと思ったんだけど」
「いや、あの状態で放置されるのも十分傷付いたと思うけどね」
あの反応に続くのが告白である事は、もはや明確過ぎる事実だ。
言う勇気がないならば、断らずに済む分傷付けずに済む―――それが、彼女の言い分。
間違ってはいないかもしれないけれど、なけなしの勇気を振り絞り、振り向いた先に彼女がいなかった時の男の顔を目撃してしまった側としては、頷きかねるところだ。
とは言え、フォローするような優しい心など持ち合わせてはいないけれど。
「面と向かって言う勇気を持ってから呼び止めてほしいわ。時間が勿体ないから」
「…流石、言うね」
俺でさえ苦笑を禁じ得ない、いっそ清々しいまでの自分本位な言葉だ。
けれど、そんな彼女の素の言葉を聞くのは、たぶん俺だけ。
エストくんにさえも、この部分は明かさないだろう。
大切な大切な弟だからこそ、尚の事。
「そう言う所、すごく好きだよ」
「はいはい。あなたの好きって、結構軽いわね」
「酷いなぁ、本気なのに」
クスリと笑い、歩き出した彼女を追う。
「…知ってるわ」
小さく呟かれた言葉は、聞こえなかったことにしておいてあげようと思う。
アルバロ・ガレイ / Tone of time