085.こんな気持ち、消えてしまえばいい

あなたが好きだと思うこの感情が、全て消えてしまえばいいのに。

何度、そう思ったかわからない。
誰よりも平穏を愛し、誰よりも平和でありたいと願っていた。
いくら昔好きだった漫画とは言え、死と隣り合わせ…どころか一歩進めば死にぶつかるような世界だ。
学生時代はその道の友人と膝を突き合わせて好きなキャラについての白熱した時間を過ごしたものだが、実際に目の前にいて関わりたいかと言えば話は別。

―――だって、死にたくないし。

私は、こう言う性格だ。
…それなのに。

「何でこうなっちゃったんだろう…」

頭の上から熱いシャワーをかぶりながら、ぼんやりと呟く。
小さな声は、激しい水音が掻き消してくれて、隣の部屋にいる男の耳には届かないはずだ。
半分曇ったガラスには、困ったような…情けない顔をした自分自身。
きゅっと曇りを指先で拭ったあたりに映っていた首筋に、赤い痕。
所有を示すそれに対する嫌悪はなく―――寧ろ、愛おしいと思ってしまう自分に、苦笑する。

こんな感情、抱く予定じゃなかった。
お金が物を言う世界だから、とにかく稼ごうと思った。
そして、ある程度稼いだところで跡形もなく消えて、あとは山奥にでも引っ込んでのんびりと暮らすはずだったのだ。
何の歯車が狂ってしまったのか、私は彼らと関わりを持ってしまい―――そして、愛してしまった。

「…馬鹿馬鹿しい」

いっそ、流されてしまおうかと思う自分がいる。
けれど、彼らの凶悪な一面を垣間見る度に、足元から凍りつくように、心臓が凍えるのだ。
関わるべきではないと、警鐘を鳴らす自分もまた、私自身。
逃げようと考えた事もある。
けれど、彼の本質を考えればそれが不可能であることは明白だった。

「…あー…板挟み」

全てを預け、受け入れることが出来ない弱虫な自分が情けない。
彼を愛しているけれど、どんな彼でも愛してみせるとは言えないのだ。

隣の部屋で人が起きた気配がした。
あまり遅くなれば、彼がここに突入してくることは明らかだから、さっさと出なければ。
暗い自分を振り払うように溜め息を吐き、シャワーの栓を閉じた。

ラッキー・ガール

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11.08.12