082.離れていくぬくもり

「じゃあ」と繋いでいた手が緩む。
手の平が離れ、指先が解け―――離れていくぬくもりに、自分の指に力を籠めてしまったのは、無意識の行動だった。

「あ…ご、ごめん」

きょとんとした表情の陸を見て、ハッと我に返る。

一体、何をしているんだか。

自分の身体なのに、行動の意味が分からないと苦笑する。
そして、引っ込めようとするけれど―――

「陸?」

離していいよ、と口にする反面、再び手を包み込んだそのぬくもりに安堵する。
寂しいと…感じたのだろうか。
こんなに近くにいて、毎日じゃなくても会おうと思えばいつだって会える距離で。
世の中の遠距離恋愛中の恋人たちが聞けば、鼻で笑われてしまうような恵まれた環境だと言うのに。

「ごめんね、陸」
「別にいいよ。でも出来れば、口に出してほしかったかな」

それは決して、困っているからではなく。
思っている事をちゃんと伝えてほしいと言っているのだ。
本当は、甘えるのは得意じゃない。
自分の心を素直に言葉にするのって、とても勇気がいる事。
でも―――

「…もう少しだけ、いて?」

包まれるだけじゃなくて、包み返すようにして。
ギュッと、彼の手を握る。
それに応えるように彼の手にも力が籠ったけれど、それは決して痛みを伴うものではなかった。

「公園まで散歩しよっか?」
「…うん」

繋いだ手に導かれて、夕暮れに染まる道を歩き出す。

甲斐谷 陸 / 向日葵

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.08.08