081.君は僕にだけ笑ってくれない
あはは、と楽しげな笑い声が聞こえた。
それは決して、大きな声ではなく、どちらかと言うとドアを隔てた音量としては小さいと言っても過言ではない。
それなのに、聴覚がしっかりとその声を拾ったのは、声の主が彼女だったからだろう。
「やだ、もう…面白すぎですよ、綱吉さん」
ドアの向こうから聞こえてくる、楽しげな会話。
彼女の顔には、あの溢れんばかりの笑顔が浮かべられているのだろうと想像するに容易い、明るい声。
―――こんな声で笑う奴だったか?
不意に、そして唐突に。
獄寺は、気付いた―――気付いてしまった。
「アイツ…笑うのかよ」
人として、それは当然の感情だ。
彼女は感情ある人間なのだから、楽しければ、嬉しければ、笑顔を見せる。
時には声を上げて笑う事だってあるだろう。
けれど―――獄寺の脳裏に、そんな風に笑う彼女の姿は、ない。
怒っている表情か、不自然に逸らされた横顔ばかりが浮かぶ。
少し前に事故で10年後の彼女を垣間見た時、彼女は笑顔を見せていた。
しかし、それはあくまでも成長した未来の彼女であり、獄寺の知る“彼女”ではない。
別人のような感覚すらあった。
「………」
気付くと同時に浮かんだのは、不快感。
俺の前では笑わないくせに―――そんな考えが浮かんだところで、ハッと我に帰る。
自分は今、何を考えたのか。
「………馬鹿かよ、俺は…」
どうかしてる、と浮かんだそれを振り払うように頭を振る。
銀髪がさらりと視界を横切った。
―――何もない、あるはずがない。
自分自身にそう言い聞かせ、ドアノブを握る。
自分の心音が異様に大きい事に気付かないふりをした。
「…あ、獄寺くん」
いらっしゃい、と笑ったツナの向こう側で、驚いたように目を開く彼女。
合ったかと思ったら逸らされた視線も気の所為なのだと、自分に言い聞かせた。
獄寺 隼人 / ランボくんのお姉さんシリーズ