077.あなたがくれた花はもう枯れてしまった

「もう2ヶ月になるわ」

そう言って口を尖らせる私に、紅が苦笑を浮かべた。
唐突な言葉だったけれど、何を示しているのかわからないほど、私たちの付き合いは浅くも短くもない。
一緒に異世界トリップを果たした絆はどんな海溝よりも深い―――そう思っているのは、きっと私だけじゃないはず。

「仕方ないわよ。九州を越えて沖縄辺りまで行くと仰ったんでしょう?」

現代風に話しているのは、この部屋の中に私達しかいないからだ。
紅は手元で何かの資料を束ねる作業を続けながら、そう答えた。

「知ってるけど…遅すぎる!」

迎えに来るって言ったのに。
そう言って読んでいた本を放り出せば、一緒になって畳の上に落ちた栞が目に入った。
押し花を貼ったそれを、紅が拾い上げる。

「押し花?珍しいわね、悠希がこういうのを作るのって」
「………趣味じゃないわ」
「ええ、知ってる」

クスクスと笑う紅は、女の私から見ても綺麗だった。
筆頭もこの笑顔にやられたのね!なんて、言葉にすると彼女が照れてしまうとわかっているから、言わないけれど。

「元親が、くれたの」

いつもは素直じゃない私が素直になれるのも、彼女の持つ空気のなせる業。
何でも話してしまいたいと思う程に、寄りかかりたいと思わせる空気を持っているのだ。

「…元親さんが、花を?」
「そう。お蔭で翌日は雨だったわ」
「それは…梅雨の所為よ、きっと」
「別にいいのよ。あの人に花が似合わないのは、国中の人が知ってる事だから」

紅の手から栞を受け取り、陽にかざす様に目線の高さに持ち上げる。
すぐに一輪挿しを用意して、少しでも長くもたせようと努力した。
けれど、やっぱり切り花には限界があって―――翌々日に海に出た彼を待つことなく、枯れそうになった花。
どうしても残しておきたくて、押し花にしたのだ。

「元親さん、きっと喜ぶわ」
「…忘れてるかも。2ヶ月も前の事だし」
「大丈夫。あの人はあれでマメな人だから…悠希に関する事なら、絶対覚えてる」

根拠もなく、けれど、迷いのない口調でそう言う紅。
彼女が言うと、そうかもしれないと意見が傾いてくるのだから不思議だ。

「…そうだといいわね」
「うん。だから、待っていようね。沢山お土産を持って帰ってくれるんでしょう?」
「そりゃそうよ。2ヶ月も放っておかれたんだから、つまらないお土産だったら海にけり落とすわ」

ぐっと拳を握れば、紅は苦笑交じりに「ほどほどにね」と言う。
元親が帰ってくるまで、あと少し。
もう少しだけ、彼がこの栞を見た時の反応を楽しみにしながら…待ってみようと思う。

長曾我部 元親 / 廻れ、

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11.07.29