076.しあわせなんて誰が決めるの
別れよう。
その言葉を理解するのに、時間を要した。
ううん、本当は、すぐに理解できていたけれど…受け入れたくなかっただけ。
瞼を伏せ、眉間のしわはいつもより三割増しにしている一護。
「他に、好きな子が出来た?」
「違う」
「なら…私の存在、一護にとって迷惑だった?」
「違うんだ。そうじゃなくて…俺は、お前を巻き込んじまうから」
霊感なんて欠片もない血筋に生まれた私が、いつの間にか霊視能力を身に着けていた。
見える筈のないものを見て―――その中に、黒い着物姿の一護を見つけてしまったのは、つい先日の事。
彼の口から全てを聞いて、この能力が一護の影響によるものなのだと知る。
その次に彼が告げたのが、別れの言葉だった。
「一護はさ…しあわせって、誰が決めるのもだと思う?」
「は?」
「いいから、答えて」
場違いな質問に聞こえたかもしれない。
でも、私にとっては重要な意味を持つ。
有無を言わさぬ空気に気付いたのか、彼は少しだけ悩んでから答えてくれた。
「自分、か?」
「うん。私もその意見に賛成。ついでに言うと―――私は、しあわせだよ」
不可思議な能力を持ってしまったとしても、得体のしれない何かに狙われる事になったとしても。
「一護と一緒で、しあわせだよ」
「お前…」
「一護が私の事が嫌いになったって言うなら、嫌だけど…どうするべきなのか、考える。
でも、そうじゃないなら…私のしあわせを、勝手に決めないで」
しあわせかどうかを決めるのは、私自身。
誰にも…たとえ、一護にだって、譲りはしない。
眼差しに決意を乗せて、彼を見つめる。
正面からそれを受け止めた彼は、短い髪をガシガシと掻き―――諦めたように溜め息を吐き、苦笑した。
「そうだよな。お前って…そう言う奴だよな」
「うん。今更気付いた?」
「いや、再確認した。…狙われるかもしれねーけど」
「…うん、覚悟…する」
「…じゃあ、守る。俺が、守るから…」
一緒にいてくれ。
さっきとはまるで逆の言葉に、私は笑顔で彼の腕の中に飛び込んだ。
黒崎 一護