074.これだけは捨てきれなかった
部屋の整理をしていて見つけた、それ。
懐かしいなぁ、なんて思いながら、繊細な作りのブレスレットを手首につける。
シャラ、と二連の鎖が軽い音を立てた。
思った以上にたくさんの不用品が溜まっていて、全てを渡した時のプーペの顔は、いつもと変わらないはずなのにどこか呆れているようにも見えた。
そうして、すっきりした室内で迎えた休み明けの朝。
いつものように寮を出て、朝食へと向かう。
別に示し合わせたわけではないけれど、その途中にアルバロと合流するのも、いつもの事だ。
「珍しいものをつけてるね。と言うより…懐かしい、かな」
食事の邪魔にならないようにと、ほんの少しだけ袖を上げただけで気付く彼の目敏さと言ったら―――恐らく、学生の中で右に出る者はいない。
比べること自体がおかしいのかもしれないけれど。
「覚えているの?」
「もちろん。もうとっくに壊れたと思ってたけど…」
そう言った彼が、私の手を取る。
持ち上げられたことにより、ブレスレットが彼に近付いた。
「そりゃあ、覚えてるよ。俺がうっかり引っ掛けて壊したんだからね」
「本当にうっかりだったのかは謎のままだけどね」
「嫌だなぁ、態と壊すわけないじゃないか」
心外だと笑う彼は、その笑顔だからこそ信じられないのだと言えば楽しげに笑みを深めるのだろう。
わかっているからこそ、口にはしない。
けれど、そう考えたと言う事だけは伝わってしまうようで、やはり笑みを深める彼。
「まぁ、直してくれたのもあなただから…気にしてないけど」
「そんな事もあったね。それより…よほど気に入ってたんだ?誰かからの贈り物?」
その質問の答えはNOだ。
これは偶々店先で目に付いたものを自分で購入したのだから。
多少は気に入っていたし、彼が直してくれたのだからと、ずっと捨てずに持っていた。
「………ええ、そんなところ」
少しの間を置いて答えた私に違和感を覚えたのだろう。
その目が理由を問うように、僅かに本性を見せた気がした。
それを曖昧に誤魔化すようにして、温かいスープを口に含む。
「ちょっと妬けるなぁ…俺が何かプレゼントしたら、つけてくれる?」
「気に入ったら、ね。…あなたからの物だと、まるで手錠みたいね」
「それもいいね」
どこまでが本気なのかわからぬまま、のんびりと朝食を終える。
授業が始まるまでの少しの間に、並んで中庭の回廊を歩いた。
教科書を支える腕に光るブレスレット。
彼からの物ではないのに、まるで彼の物だと言う証がついているようだと思った。
「…ペンダントにしようか」
「まだその話が続いていたの?」
「うん。ピアスもいいね。ピアスホールは俺が開けてあげるよ」
「贈られる物に文句をつけるつもりはないけれど…気に入らないものはつけないわよ?」
「君の好みは熟知してるからね。安心していいよ」
そう言った彼の表情だけは、何故か信じられると思った。
アルバロ・ガレイ / Tone of time