073.嘘を重ねて動けなくなる
話してしまえば、すぐに解決するんだってわかってる。
でも、言えない。
花梨に、意地を張って、と言われても言えないものは言えないのだ。
猛に「今日も一緒に帰れない」とメールを送るのは、これで何度目の事だろう。
そう恋人同士の甘い空気は苦手だけれど、こう何日も一緒に帰れないと、寂しいと感じる。
名の通りに猛進してくる彼に、思わず引いてしまっていた日々が懐かしい。
そうして、今日も“彼”が来た。
「こんにちは」
「…こんにちは、先輩」
人目につかないように図書室の奥の奥にいたのだから、偶然を装うには無理がある。
その行動だけで彼の目的が私である事は明白だったし、何より彼の口からそれを聞いているのだから間違いない。
メールを送った携帯を制服のポケットに入れ、本を選ぶ振りをして彼から視線を外す。
「送るよ」
「まだ暗くありませんし、大丈夫です」
「暗くないから危なくないとは限らないだろ?」
そう言って近付こうとする彼から一歩離れる。
そこで、ポケットに入れた携帯が震えた。
「何かあったのか?」そんなメールに、少し迷って「何もないよ」と返信を送る。
そして、今日こそは、と彼の方を見た。
「何度来てくれても、私の返事は同じです。先輩とお付き合いするつもりはありません」
「大和がいるから?でも、好きで付き合い始めたんじゃないんだろう?」
「だから…!」
それは過去の事で、今はちゃんと分かり合えたのだと、何度言えばわかってくれるのか。
つい声を荒らげようとしたところで、前から伸びてくる手に思わず口を噤む。
逃れるように後ろに引いた身体が、トン、と何かにぶつかった。
背中からふわりと抱きしめられ、腹のあたりに鍛え抜かれた腕が回る。
私の身体を、有無を言わさず閉じ込めてしまう強引なこの腕は、よく知ったそれだ。
振り向かなくたって、わかる。
「どこが“何もない”って?」
「………猛…」
必死になって隠していたのに、あっさりと露見してしまった。
手に持ったままだった携帯が震えていたけれど、中を確認する余裕はない。
「彼女は渡しません」
「…大和…」
本人を前にするのは分が悪いと思ったのか、彼の強い視線に竦んだのか。
先輩は、たじろぐ様に後ろに身を引いた。
「彼女を口説きたいなら、俺を通してくれますか?見ての通り、相談一つも言えない性格なので」
図星を指摘され、思わず視線を足元に落とす。
そこに付け込んでいた自覚はあるのだろう。
先輩はこれ以上は無理と判断したのか、じゃあ、と言い残してその場を去った。
「詳しい事が言えないなら言わなくていい。ただ、嘘だけはやめてくれないか?」
二人だけの空間で、猛の声が鼓膜を震わせる。
その声に心配の色が伺えて、私の身体は何を考えるまでもなく、素直に頷いていた。
―――ごめんな。でも、ちゃんと話した方がええよ。
お節介で優しい友人のお蔭で、いつもの日常が帰って来たようだ。
大和 猛 / ガーベラ