072.抱えられないなんて言わないで

「やっぱりここか」

馬の嘶きと蹄の音が聞こえ、彼が来てくれたのだと気付いていた。
程なくして、背中にかかる声。
政宗様を振り向く時に、虎吉の横に立つ彼の愛馬が見えた。
よく躾けられている二頭は、どこかに結わえなくても逃げたりはしない。

「申し訳ありません。何も告げず、勝手をしました」

しなければいけない事は全て終わらせてきた。
そして、行先だけは誰にも告げる事無く、そっと城を飛び出してから半日。
氷景は何となく気付いていたのか、何かあれば呼べとだけ言い残して、遠く離れてくれている。
政宗様が来たのと同時にその気配を感じなくなったから、きっと城に戻ったのだろう。

「いや、気にしなくていい」

そう言うと、政宗様が私の隣に並ぶ。
ここからならば、領土の全てとは言わないけれど、その大部分を見る事が出来る。
見える範囲全てと、その少し先まで。
それが、私が背負うべきもの。
この両腕で抱え、守らなければならないもの。
それを実感したくて、この場所に来たのだ。

「今朝から、ずっと考えてたのか?」
「………」

唐突な問いかけに、無言で頷く。
恐らく、少しだけ態度に出てしまっていたのだろう。

―――守るものが多すぎて、この両腕では抱えられない。

夢の中の私が呟いた言葉。
夢だけれど、夢だからこそ。
自分の深層心理が出てしまったのではないかと、不安になる。
だから、ここに来た。

そっと、自分の両手を見下ろす。
何も掴んでいない手の平は、何を掴み取れるのだろうか。

「ここに来る時は、一人で来るなよ」
「危険はありませんよ?」
「守るもの―――実感したいなら、俺と来い」

そう告げた政宗様の手が私の手首をつかむ。
そして、掴んだ手を動かし、私の手は彼の胸元へと触れた。
鎧越しにその鼓動を感じることは出来ないけれど、この手の平の下には確かに彼の心臓がある。

「お前は無理に背負わなくていい。俺に触れて、支えてくれ」

全てを背負う事を望まない、優しすぎる彼。
これは私の役目だと、私自身だってわかっている当たり前の事なのに。

「…ありがとうございます」

その優しさに甘えるわけにはいかない。
だから、肯定する返事ではなく、言葉に対する礼を述べる。
それだけで、彼には全てが伝わっただろう。

「…お前らしいな」

苦笑し、けれど、どこか誇らし気に口角を持ち上げる。

伊達 政宗 / 廻れ、

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11.07.22