069.身代わりでもいいから
「もう終わりだよ」
そう言って、縋るように上着を握る指先を振り解く。
弱さを強調する行動も、言動も―――何もかもが、気に入らなかった。
見ていて、苛々する。
けれど、女はそんな僕の感情にも気づかず、必死に縋りついてくる。
「私は嫌よ、お願い!」
「僕に、君は必要ない」
「あの人の身代わりでもいいの。傍に居させてくれるなら、何だっていいから…!」
「身代わり…彼女の?」
僕が反応したことによって、望みがあると勘違いしたのか、女は強く頷く。
「自惚れもいい加減にして。彼女の代わりなんて、誰にもできないよ」
彼女ほどに、全てが僕の興味を惹く人を、知らない。
彼女が言わなければ、この女とほんの少しでも時間を共有する事だって、あり得なかった。
自分でも驚くほど冷たくなった声に、女は言葉を詰まらせた。
その目から涙が零れ落ちるのを、無感情に見つめる。
「代わりなんていらない。僕が欲しいのは、彼女だけだ」
「…っでも、あの人はあなたを見ていないんでしょう!?」
「ねぇ」
声を荒げた女を、低く呼ぶ。
ビクリと肩を震わせた女は、漸く気付いたようだ。
自らが踏んだ地雷の存在に。
「僕が女に手をあげない男だと思っているなら、大間違いだよ」
女が脆い生き物だと知っているから、進んで手をあげる事はしない。
けれど、理由があれば話は別だ。
「僕の傍に居たいなら、彼女になって。何一つの偽りもなく、彼女自身に。それが出来ないなら―――消えて」
これ以上の時間は許さない。
声を失い、動けなくなった女を置いて、その場から立ち去った。
雲雀 恭弥 / 黒揚羽