068.気付いて、でも気付かないでいて
闇が世界を包む時間。
太陽を嫌うように、夜になって増してくる妖力は、結界能力を強化する。
強固に守られた世界の中で独り、夜の星を見上げた。
そんな彼女の目に、きらりと光る滴。
「―――――」
寂しくなんて、ないと思っていた。
寧ろ、母も父もいない世界は自由で、発見と驚きに包まれていた。
“私”だけしか知らない妖怪たち。
母も父も、兄も姉も。
誰にも、重ねられない、私自身が自由でいられる場所。
そんな場所を見つけたのだ。
帰る方法を見つけ、母の使い魔だけを帰すと決めたあの日。
どうして、と問う使い魔に「私だけの世界を見つけたから」と答えたのは、本当の気持ちだった。
「これは…後悔じゃない」
それだけは、はっきりと言える。
けれど、時折―――胸に穴が開いたみたいに感じる事がある。
ザァ、と風が吹いた。
背後に立つ気配を感じる。
何かを言うと思ったけれど、彼は何も言わず、ただそこにいるだけだった。
「………」
気付いてほしくないと思った。
こんな弱い自分を誰かに…彼には、見られたくなかったから。
けれど、もしかすると、気付いてほしいとも思っていたのかもしれない。
背中にある彼の気配に、胸の空洞が埋まるのを感じたから。
「…ありがとう」
背中で、彼が音もなく笑うのを感じた。
奴良 リクオ / 桜花爛漫