067.理由なんて必要ですか
何でなんだよ!?
文字通り血を吐くようにして、妖怪は擦り切れた叫びを発する。
鏡を見るまでもない。
妖怪を見下ろす私の目は、冷酷以外の何者でもないだろう。
「何で、とは?」
「テメー程の妖怪なら、魔界の頂点だって落とせるだろ!?いや…テメー自身が頂点を目指す事だって出来るはずだ!それなのになんで、あんな弱い奴に…!」
男が言う事に間違いは、ない。
確かに私は頂点と謳われる妖怪をも我が物にする自信はある。
九尾の狐はそう言う存在なのだ。
誑かし、誘い、自分以外が見えないようにと虜にしてしまうような、能力とは少し違うものを持っている。
私以上に強い妖力を持つ妖怪であればその誘惑にも負けないかもしれないけれど、今のところ該当する妖怪に出逢ったのは片手の指でも余る。
私自身もまた、頂点を目指すだけの妖力を持っていると言うのは自惚れではなく事実なのだから。
男は納得できないのだろう。
そんな私が、蔵馬と言う差し当たって強くない妖怪と共にいる事が。
単純に力だけを見れば、蔵馬はこの男にも劣るだろうから。
私と言う存在を欲する男には、彼の存在は許し難いものらしい。
「何で、か…」
理由なんて、考えた事もなかった。
昔、同じことを思った事はあるけれど、その時は―――
「蔵馬が蔵馬だから、としか言えないな」
それ以上の答えなど、ない。
薄く笑って答えると、妖怪は余地などないと理解できたのだろう。
乾いた笑い声を残し、やがて静かに事切れた。
物言わぬそれを見下ろし、小さく息を吐く。
幾度となく見た光景は、ほんのわずかですらも私の心を揺さぶったりはしない。
「…帰るか」
そうして、私は未練なくその場を後にした。
妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い