063.連れて行かないで

屈託のない、きょとんとした目で自分を見上げてくるのは、最近になってようやく一人で歩けるようになってきた息子だ。
大波に揺られるたびに、右へよたよた、左へよたよたと歩いている姿が、何とも可愛らしいと好評だ。
シャンクスは息子が声を上げる前にと、人差し指を唇の前に立て、しぃ、と呟いた。
その仕草の意図を悟り、小さな手で口を塞いでコクコクと頷く彼。
この賢さはどちらに似たのか、と問えば、仲間は間違いなく「母親似」だと答えるだろう。
…間違いない。

よし、と大きな手で小さな頭をガシガシ撫でて、それから息子をひょいと抱き上げる。
そして、シャンクスは目的地へ向かって歩き出した。





「…で?」

腕を組んで睨み付ける彼女と、睨み付けられているシャンクス。
ダイニングルームのただならぬ空気に気付いた仲間は「何事だ!?」と一度は顔を覗かせ、中の光景を見て「ああ、またか」と去っていく。
赤髪海賊団の船の上では、この光景を目にする機会はそう少ないものではないのだ。

「いやー…折角の島だったからな。たまには息抜きも必要だろ?」
「この島には数日前から海軍が停泊している事は言ったはずよね。昨日の事なんだから、流石に覚えているでしょう?そんな中に訓練途中の息子を連れ出して、海軍に見つかって追いかけられてきたわけね―――で、何か言い分は?」

責めるような声ではなく、声だけを聞けば慈愛に満ちたもの。
一息に喋らず、あえてゆったりと間を置きながら語られる言葉。
全てが、何だかとても怖かった。

「…悪かった」

こうなれば、素直に頭を下げる以外に取るべき行動はない。
自分に非があるのは明らかなのだから。
シャンクスと息子の姿がいない事に一番に気付いたのは彼女だと言うし、一番心配していたのもまた、彼女なのだろうから。

「…連れ出すなとは言わないわ。でも、あの子の力はまだ不安定なの。お願いだから…もう少しの間は控えて」
「ああ、そうだったな。心配させて悪かった」

ごめんな?と謝られ、彼女の表情に苦笑が浮かんだ。
この表情が出れば、もう彼女は怒っていない。
疲れて眠っている息子にも後から謝らせようと心に決め、謝罪を込めて彼女の頭を撫でた。




「ベック!シャンクスはどこ!?あの子もいないんだけど!!」
「…またか」
「あの人は何でこう同じことを何度も何度も…!子どもが二人いるみたいだわっ!」
「………みなまで言うな」

シャンクス / Black Cat

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.07.01