062.いつだって私を置いていくのね

いつだって、彼は変化の中にいた。
いや、寧ろ…彼を中心に、世界が動いている。
“知っている”私からすれば、それは当然の事で。
けれど、私以外の誰かが、気付く事はあり得ない。
彼らは、登場人物の一人ではなく、今この世界を生きているのだから。

「じゃあ、行ってくる」
「怪我は―――ううん、何でもない。気を付けて」

怪我はしないでね、と言おうとして、それは不可能だと思い出す。
いつだって彼は傷つき、時には死が目前に迫って―――それでも生き延びていくのだ。
彼が、この世界の中心だから。

崩玉と言う類稀なる存在があって尚、私には何の力も与えられなかった。
それを受ける器ではなかったと言う事なのだろうと、既に諦めはついている。
無理を通して連れて行ってくれと懇願する事は出来るけれど、一護は決して頷かない。

「俺たちが乗り込むだけだからこっちは大丈夫だろうけど…一応、気をつけろよ」
「うん。何かあったら助けに来てね」
「そりゃ無理だろ」

そう言って笑ってくれる彼に、心中で「何も起こらないよ」と告げる。
全ての事は向こう側、尸魂界で起こる事だから。
こちらの世界が危険に晒される時期は、まだ少し先だ。
知っていると言う事は便利であり、そして不便でもある。

「…こっちはきっと大丈夫。だから…気を付けてね、一護」

彼は死なない。
彼は生きて帰ってくる。
わかっているはずなのに、わかっているからこそ。
紙上の場面が現実になるのだと思うと、とても怖い。
私と言う異物によって、未来が変わる事―――それが何よりも、怖かった。

行ってくるな、と笑みを浮かべ、彼は私の頭を撫でた。
そして、歩き出す背中を唇を噛み締めて見送る。
行かないでとは言えない。
これは、彼の物語だから。
でも―――どうせ生まれ変わるならば、彼と共に歩める力が欲しかった。
そう望まずにはいられないのだ。

黒崎 一護

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.06.29