061.花のようにうつろうもの
「これっていつの写真だっけ?」
いくつものアルバムが広がる中心部で、彼女は床に座り込んでいた。
楽しげな表情で顔を上げた彼女が指差すアルバムには、どこか懐かしさを感じる光景が写し出されている。
二人が歩んできた過去なのだから、当然だろう。
「あー…いつだったかな…」
彼女の手からそれを受け取り、頭を捻って記憶を探る。
ペラッとページを捲り、写真と共に薄いフィルムに挟まれたそれを見て、あぁ、と気付く。
「新入生歓迎会の頃だな」
「思い出したの?」
「この頃だろ。メモは好きじゃないとか言って、その時期の花を一緒に挟むようになったの」
ブン太の言葉に手をポンと叩き、そう言えば、と頷く。
いつ、どこで。
普通ならばそうしてメモ書きするのだが、彼女はそれがあまり好きではなかった。
理由は特になく、何となく、だそうだ。
しかし、時間が過ぎれば薄れてしまうのが記憶と言うもの。
それならばと、その時期の花を一緒に残して、記憶を探る手がかりの一つにしようと考えたのだ。
そのお蔭で、数ページに一つずつ、季節の花が挟み込まれている。
「そっか…懐かしいね」
「そうだな」
「10年分ともなると、結構な量で整理が大変なんだけど…うん、楽しい」
薄いフィルムの向こう側で、花と共に移り行く世界。
それはかつて、二人が体験してきた過去であり、軌跡だ。
「整理もいいけど、オーブンがイイ匂いさせてるぜ?」
「あ、もうそろそろかな」
思い出したように立ち上がった彼女は、すれ違いざまにブン太にアルバムを手渡していく。
真新しいキッチンへと入った彼女がオーブンの前や戸棚を行き来する。
一連の動きにはまだ少し拙さが見えていて、ブン太はそんな彼女の様子に小さく笑った。
新しいキッチンでの、初めてのお菓子作りは、果たして成功するのだろうか。
手渡されたアルバムを見下ろすと、そこに写った幼い自分たちがいた。
エプロン姿の彼女の手には手作りのクッキーがあって、今まさにそれに食らいつこうとしている自分。
誰が撮ったのかは覚えていないけれど、随分とナイスなタイミングで撮ってくれたものだと思う。
「ブン太ー。すぐに食べる?」
「当然だろぃ。飲みもんは俺が入れてやるよ」
「ん。えーっと…ケーキ用の平皿はどこに片付けたんだっけなぁ」
「ケーキ用のはそっち。…逆だっつーの。そう、その奥にあんだろ?」
「あ、ホントだ。よく覚えてるね」
「週末に使う気満々だったからな」
「用意周到な事で。あ、飲み物は甘さ控えめね」
「りょーかい」
丸井 ブン太 / スイートピー