058.一つになりきれない
「いっそ、あなたを食らったら…一つになるのかしら」
聞き方によらず、物騒な言葉ではあるけれど、魔界ではごく普通の会話だ。
現に、蔵馬はその部分に対しては気にした様子なく、答える。
「生憎だが、食われる趣味はないな」
「私も共食いはしない種族だけど…あなたを見ていると、時々、思うのよね」
肘をつき、肩を竦める彼女。
その言葉に偽りがないと言う事は、その目が物語っている。
「本能が強く反応するのかしら」
「…かもしれないな。俺も、否定は出来そうにない」
「あら、そうなの?」
愛しくて、愛しすぎて。
本能的に、身体の内に相手を取り込んでしまいたいと思うそれ。
妖怪の中には番を食らう種族もいるから、あながちありえない話でもない。
「求めているのは、肉体的な融合じゃなくて…精神的な部分なのかもしれないわね」
肉体的につながる事ならばできる。
けれど、それは一時的なものでしかない。
恐らく、本能が求めているのは、もっと奥深い…精神的な部分の繋がりなのだろう。
「お前になら食われるのも吝かではないが…命を喪えば、この腕に抱くことも出来ない。だから、食われてやるわけにはいかないな」
「本気で食らったりしないわ」
「ああ、わかってる」
「…でも、ありがとう」
嫌だと否定されたわけではなく、この感情ごと受け入れてくれたことに対する感謝。
それを告げると、蔵馬は小さく口角を持ち上げてから、彼女の身体を膝の上に引き上げた。
額を触れ合わせ、限りなく近い距離で見つめ合う。
「何も恐れなくていい。俺の全てはお前と共にある」
「…そうね。私も…全てはあなたのために」
魂の欠片さえも、他の誰かにゆだねる事はないと断言できる。
視線を絡め、まるで誓い合うようにそっと口付けを交わした。
妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い