056.蜃気楼のようなくちづけ

ふわりと掠めたその感触は、ともすれば気の所為だったのだろうと思えるほどの軽やかなもの。
気配が去るのに合わせ、勢いよく身体を起こした彼女は、頬を赤くしてそこを指先でなぞった。
縁側を吹く風から守るようにかけられた羽織には、微かに香が残っている。
間違えるはずもない香に、口元を押さえて俯いた。

「こんな風に触れるなんて…」

何が彼にそうさせたのかはわからないけれど、こんな風に触れてくるのは初めてだと思う。
慈しむように撫でられた頬や、優しく触れられた唇や。
全てが熱を発し、自覚してしまえば正気ではいられなかった。
借りた羽織に身を隠すように、頭からそれを引っ掛けて身体を縮めてしまう。
寝心地など良いはずもない無機質な縁側の板だが、今だけはその冷たさが心地良い。
彼の香の残る羽織の中で、静かに瞼を伏せた




「姉様、風邪でも召されましたか?」
「いいえ、大丈夫。縁側で転寝をしてしまった所為ね」
「あぁ、なるほど。それで兄様が羽織を?」
「………ええ、そうみたい」
「(顔が赤い…やはり風邪を召されたのだろうか…?)」

朽木 白哉 / 睡蓮

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11.06.14