053.まぼろしなんかじゃない

今目の前に広がる光景が、いつか、突然なんの前触れもなく。
指をすり抜けるように、消えてしまうのではないかと。
恐れる感情を誤魔化して蓋をして―――視線を逃がした先には、いつも彼がいた。

「どうした?」

きっと、視線の意味は知らない。
けれど、何かある事だけは気付いていて、いつもより優しく声をかけられる。
不安に揺れる心が、それだけで地面を得たような安心感を受けた。

「いいえ、何も」

傍にいる彼が夢幻ではなく、確かに現の存在であると確かめるように、そっと彼の着物の袖を握る。
何も、なんてどの口が言えるのだろう。
誤魔化されているとわかりながらも、何も聞かない彼の優しさに甘えている。

「握るならこっちにしろよ」

解かれた指が、彼のそれと絡み合う。
素肌から感じる熱を共有すると、心に残っていた最後の一欠けらが取り除かれたのを感じた。
心が、解放感に歓喜する。

「…ありがとうございます」

何も告げないのに、ずるいかもしれないと思う。
けれど、彼は何でもない事のように笑ってくれるから。

「話したくなったら言えよ。いつでも聞いてやる」
「ええ、その時はお願いします」

もしかすると、彼は全てわかっているのかもしれない。
甘える事を許してくれる彼の横顔を見上げてもう一度、ありがとうございます、と心の中で呟いた。

伊達 政宗 / 廻れ、

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11.06.09