050.君の目さえ見なければ

頭からすっぽりとシーツをかぶり、白い塊と化している彼女。
その傍らで困ったように金髪を掻きあげるのは、つい先日キャバッローネを継いだディーノだ。
なぁ、と声をかけるだけで、びくりと震える白いそれ。
怖がっているわけではない事は、シーツに潜り込んでしまう前の彼女を見ているからわかっている。
城に隠れる寸前の彼女は、熟れたリンゴのように真っ赤な顔をしていた。

「とりあえず、シーツから出てこないか?」
「…無理、です」

なんてか細い声だろうか。
蚊の鳴くような声は、この距離でなければ聞こえなかっただろう。
空耳と思い込んでもおかしくないそれは、否定の言葉。

「つってもよー…ずっとこのままってわけにはいかないだろ?つーか、俺が耐えられないんだが」

何が悲しくて、ついこの間想いが通じ合ったばかりの恋人との間を、白いシーツに遮られなければならないのか。
二人を隔てるそれは、強固な壁ではない。
けれど、それを力づくで取り払う事など、出来るはずがなかった。

「せめて顔だけでも」
「…無理です」
「じゃあ、手は?」

譲歩に譲歩を重ね、告げた言葉に動きがあった。
もぞり、と揺れたシーツの波から滑り出てきた手。
彼女の体格に比例して華奢なそれが、何かを求めるように空を掻く。
ディーノは迷いなくその手を取り、その大きな手の中に包み込んでしまった。

「出来れば顔も見たいんだけど」
「………それは…無理、だけど…」

吐息のような小さな声の後、動き出した彼女はディーノの足の間に移動して、その背中に胸を預けた。
顔全体は見えていないけれど、僅かに見える頬や耳は、これでもかと言うほど、赤い。
そして、その細い身体は緊張からなのか、微かに震えていた。

彼女はディーノの腕を自分の腰に回し、その上から自分の手を重ねる。

「嫌なわけじゃないんです。ただ…自覚してしまったら、緊張して…あなたの目が、見られない」

今の彼女には、これが精一杯なのだろう。
心なしか声も震えていて、それが限界なのだと知る。
ディーノは彼女に見えない位置で小さく微笑み、その身体をぎゅっと抱きしめた。
もちろん、無理やり顔を見たりはしない。

「徐々に慣れればいいから。俺は、お前がここに居てくれるだけで十分だって」
「…頑張ります」
「おぅ。でも程々にな」

ディーノ / お姉さんシリーズ

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11.06.06