045.夜明けがいつまでも来なければいい

「お前を腕に抱いていると、いつまでも夜明けが来なければいいと…そう思う」

そんな自分が不思議だ。
鼓膜に吐息を吹き込むように告げられた言葉に、クスリと笑う。
嘲笑ではないけれど、その言葉を受け入れる笑いでもない。
言うならばそれは、苦笑に近かった。

「そうは言うけれど、蔵馬?夜明けも何も…あなたは時間なんて関係なく、私に触れていると思うわ」

その行動には昼も夜もなく。
彼の心の赴くままに行動していると言うのに、今更夜明けを拒むだなんて、それこそ不思議な話。

「でも…本当に夜明けが嫌なら、朝から逃げてみる?」

頬から耳元へと、その銀髪の中へと指先を差し込む。
そうして後頭部を引き寄せ、吐息が絡むような距離で挑発めいた視線を向けた。

「いつまでも、どこまでも…あなたとなら、夜の果てを目指してみるのも悪くはないと思うわ」
「…本気か?」
「嘘ではないわね。でも、私はここの生活も気に入っているけれど」

それでも、蔵馬と両天秤にかけた時、どちらに傾くのかは考えるまでもない事だ。
今の生活など、何の躊躇いもなく捨てられる自信がある。

「定められた一日が終わり、夜が明けて―――新しく始まる一日にも、あなたがいる。それは幸せな事、でしょう?」
「………それもそうだな」
「と言うわけだから、そろそろ眠らせてくれないかしら。明日の予定も山積みなのよ」
「残念だが、それは聞けない相談だな」

掠めるように始まった口付けは、やがて確かな熱と欲を持って素肌の上を滑り出す。
まだしばらく訪れないらしい平穏な睡眠を諦め、求められるままに、そして求めるままに腕を絡めた。

妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.05.30