044.指先の抗議

タシ、タシ―――間の抜けた音が、何度も何度も。
音を立てているのは小さな黒猫で、音を立てられているのはエースだ。
彼は今、呼吸を確かめたくなるほどに深い眠りの中にある。

起こそうと努力していた彼女は、10分も待ったのだから気が長い方だろう。
痺れを切らした猫の手に、シャキン、と爪が飛び出す。

「っいってーっ!!!」

バリッと派手な音がして、起きる気配のなかったエースが飛び起きた。
彼の頬には深々と刻まれた三本傷。

「何すんだ!!流血してるぞ!?」
「シャンクスとお揃いにしてあげたよ」
「頬じゃねーか!」
「え、目元の方が良かった?」

見えなくなるかもしれないけど、と爪が剥き出しの手を持ち上げる。
一瞬でも肯定する素振りを見せれば、その手は容赦なくエースの目元を抉るだろう。
視力を失いかねない発言は、彼女が怒っている証拠だ。
やめてくれ、と言う意思表示に、そっと彼女の手を握る。
と言っても相手は猫の姿。
何処をどう見ても甘い雰囲気の恋人同士には見えず、そこにあるのは愛猫家と気紛れな猫、と言う図だ。
それに気付いたのか、深い溜息を吐き出したエースが彼女の肉球をふにふにと押す。

「やめて、気持ち悪い」
「手触り抜群だよなぁ」
「………」
「やめる。やめるからその爪はやめてくれ」

きらり、と顔を覗かせた爪の存在に気付き、慌ててそう謝罪する。
肉球に和んだお蔭で一瞬忘れていた頬の痛みが返って来た。

「…痛そうね」
「お前が引っ掻いたんだろうが」
「起きないエースが悪い」
「ったく…傷が残ったらどうすんだよ」
「大丈夫大丈夫。皆に笑われるだけだから!」

アハハ、と笑うと、彼女はトンッとエースの膝から降りた。
そして、人の姿へと戻ると、軽い足取りでドアへと向かう。

「傷が残ったら責任取って、ずっと一緒にいてあげる」
「じゃあ、必死で残さねーとなぁ」
「はは!頑張って」

先に行ってるよ、とドアを潜り抜けて姿を消す彼女。
一人になった部屋の中で、溜め息を吐き出す。
そして、ググッと伸びをしてから、彼女を追うようにそこを後にした。

ポートガス・D・エース / Black Cat

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

11.05.26