043.一瞬の熱情の保存方法
「あ、コウとアルバロだ」
一緒に歩いていたエドガーがそう呟くのを聞き、どこ?と周囲を見回すルル。
ほら、と彼が指した先は、中庭の一角。
植え込みやら何やらで、注意していなければ見落とすような場所だった。
二人があえてそう言う場所を選んでいる事は明白だろう。
「あの二人って素敵よね!」
「え?うーん…コウは素敵な女性だと思うけど…アルバロはどうかな」
ちょっと悩むよ。
そう言って苦笑する彼に、そんな事ない!と元気に否定できない所が苦しい。
人の不幸を笑うほど非道ではないけれど、それを楽しむのがアルバロだ。
でも、とルルは意気込む。
「アルバロ、コウさんにだけは優しいもん。私は二人が一緒の時の空気が好きだなぁ」
「…そうだね。それは、わかるよ」
何の話をしているのだろうか。
コウがにこやかに話し、アルバロがそれに相槌を打ちながら、時折口を開く。
意地の悪い表情が顔を覗かせる事もなく、どこまでも穏やかな空気が二人を包んでいる。
「確かに、僕が聞いた噂では、二人の関係を羨む生徒はかなり多いみたいだよ」
メモを取った手帳を広げてそう言ったエドガーに、ルルは、うんうん、と満足げに頷く。
時々意地悪な彼が、彼女に対してはどこまでも優しい、と言うギャップが、好感度に影響しているようだ。
普段から優しい彼氏が、不思議な方向に期待を膨らませる彼女に対し、肩身の狭い思いをしていると言う結果も出ている。
語ってくれた男子生徒の「俺にアルバロを求められても…」と言う溜め息には、思わず肩を叩いて励ましたくなってしまった。
「今度のミルス・クレアタイムズで二人の特集を組んでみようかなぁ…」
「あ、それいいかも!」
「…何これ」
面白い物が見れるよ、と手渡してきた本人は、眉間に皺を寄せるコウを見て笑みを深める。
自分たちが記事にされていると言うのに、どこが楽しいのだろうか。
…いや、彼なら楽しむか。
「しかも、この写真…気付いていたんでしょ」
「さぁ、どうだろうね?これだけ離れてるんだから、いくら俺でも気付かないかもしれないよ?」
「変だとは思ったのよね…やたらと絡んでくるから」
いつ撮られた写真なのか、それに気付いたコウは、記憶を手繰り寄せて「あの時か」と納得する。
あれで気付いていませんでした、なんて、誰が頷くものか。
「今から一緒に食堂に行こうか?視線がすごい事になりそうだよね」
「…私は楽しくないのよ、アルバロ」
「とか言うけど、コウは拒まないよね」
何だかんだ言っても、彼は彼女の性格を誰よりも理解している。
差し出された手を振り払う事も無視する事もなく、溜め息を吐き出してから自身の手を重ねた。
「ミルス・クレアタイムズにキスシーンが載ったのに、意外と冷静だね」
「いつまでも大袈裟に反応していられないわ」
「少し前のコウなら面白い反応だっただろうなぁ…エドガーくん、もう少し早く特集を組んでくれたらよかったのに」
「………楽しまないでったら」
アルバロ・ガレイ / Tone of time