042.鼓膜を震わす君の言葉

カフェオレの香り。
頭をふわりと撫でられる感覚。
全てが優しくて、この微睡から抜け出す事を拒む頭。
本当は起きているのに、起きてしまうのが勿体なくて…抵抗するようにシーツを手繰り寄せた。

「いい加減に起きないと、遅れるよ」

耳に直接吐息を送り込むような、苦笑交じりの声。
ゾクリと背筋が逆立った理由は何だろう。
思わずパチッと目を開き、文句の代わりにじとりと睨み付ける。
きっと、拗ねたような顔になっているんだろうなと思った。

「おはよう」
「…おはよ」
「朝ご飯、適当に作っておいたよ。…寝坊するなんて珍しいね」

言外に含まれる意図に気付くと、彼女は僅かに頬を染め、傍らにつく彼の手の甲を指で抓んだ。
殆ど力の入っていなかったその手は、いとも簡単に彼の手の中に包み込まれる。
絡みあう指先がくすぐったくて、そっと目を細めた。
見上げた先では同じような表情を見せる翼がいて、感情の共有を嬉しく思う。
甘えるように腕を伸ばし、彼の首を絡め取って自分の方へと傾ける。
挨拶代わりの口付けに、珍しいね、と先ほどと同じ言葉を重ねる翼。

「朝ご飯のお礼」
「そ。じゃあ、さっさとベッドから出ないと、堪能する時間もなくなるよ」
「え?もうそんな時間!?」

驚き、慌てて振り向いた先にある時計は、出発まではまだ随分と前の時間を示していて。
一緒に暮らしているのだから、準備にかかる時間くらいは知っているはずなのに―――と思ったところで、気付いた。

「もう、翼ったら!」

騙したのね、と振り向いた時には、彼は既に手の届く範囲にはいない。
早くおいでよ、と言う声だけが聞こえて、彼女はベッドの上で唇を尖らせた。
しかし、その表情はすぐに笑みへと変わってしまう。

「…夢じゃない、んだよね」

自分たちの姿は、幼い頃に思い描いた未来予想図をそのまま歩いていた。

椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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11.05.24