041.熱と冷気の狭間に位置するもの
「…熱血なんじゃない?」
時間潰しの謎かけにもならない質問に、彼女は肩を竦めながら答えた。
その視線の先では、雪降る寒空の下で熱心に槍を揮う幸村がいる。
彼の持つ属性が関係しているのか、それとも彼の熱気の所為なのか。
幸村の上に降る雪は、彼に触れる前に溶けてなくなる―――だけでは飽き足らず、蒸発しているように見えるのは目の錯覚だろうか。
幸村の周囲だけ、霧がかかったような状態になっている。
「あれって目の錯覚?」
「いや、現実だよ、姫さん」
「幸村にかかれば雪は溶けるものじゃなくて蒸発するものなんだね…」
何だか、新たな世界を見た感じだ。
感心しているのか呆れているのか。
そんな彼女の傍らで、佐助が曖昧に笑った。
「それより…中で暖を取ったら?風邪でも引かれると煩い人たちが二人はいるんだけど」
「大丈夫。風邪はここ数年はかかってな―――っくしゅ!」
言っている傍からクシャミが出てしまった。
説得力のかけらもないな、と思って見上げれば、案の定、呆れ顔で肩を竦める佐助と目が合う。
しかし、彼が口を開くよりも前に、駆けてくる足音が一つ。
「姫!またそんな薄着でこんな寒空に…!!」
今気付いたのか。
佐助と彼女の心の声が重なる。
幸村らしいと言えばそれまでだが…仕える主の娘がそこにいて、今の今まで気付かないと言うのはどうなのだろうか。
「幸村、あなたに薄着って言われたくないわ」
佐助はまだしも、腹が出ている格好の彼にだけは言われたくない台詞だ。
彼女自身は浴衣でそこにいるわけではなく、着物の上に二枚も上着を羽織っているのだから。
それに、降る雪をかぶらないように、縁側に座布団を持参する徹底振りだ。
「某はこれに慣れております!」
「…いや、年がら年中その格好よね」
「すぐに部屋にお戻りください」
「平気よ、寒くないわ」
彼女がそう答えると、槍を地面に突き立てた幸村がそっとその手を彼女の両頬に触れさせる。
温かい手の平が、冷たい頬に触れた。
寒さなんて感じていなかったのに、この熱に触れてしまえばそうも言えなくなってしまう。
「こんなに冷えて…」
と言うより、幸村は自分の行動を理解しているのだろうか。
触れられている側の彼女は、彼の行動に驚き固まっていて、その傍らにはやれやれと空を仰ぐ佐助。
「…わかった、わ。部屋に入る。入るから…」
離して、と小さく小さく告げる。
そこで漸く、彼は自分の手の所在を意識した。
湯気でも噴き出しそうなほどの勢いで顔を赤くした彼が、数歩分を後ずさる。
このままだと土下座でもしそうなので、彼が言葉を詰まらせている間に退散しようと決めた彼女は、すぐに腰を上げた。
「佐助」
「うん?」
「さっきの答え…愛情ってのもありかも知れないわ」
そう言うと、彼女は座布団を持ってさっさと奥へと引っ込んでしまった。
立ち去る時に見えた頬の赤さは隠しきれていなかったけれど。
「―――も、申し訳ございません!!」
「旦那旦那、もう姫さん中だから」
真田 幸村