038.曖昧な答えはいらない
「そろそろ答えが欲しいんだ」
ヒソカの向こうに見える天井にはシミ一つない。
何でこんな事になってしまったのかと溜め息を吐きたくなる半面、随分待たせている自覚はあるので仕方がないと受け入れている部分もある。
熟すまで待つと言う事は出来るようだから、そう焦りはしないだろうと言う私の読みは、ある意味では的中。
ただ、もう少しもつと思っていただけに、その部分は外れてしまっている。
「この状況でヒソカにとって良くない答えを出すと、身の危険を感じるんだけど?」
いや、寧ろその逆か。
身の危険を感じるのは、良い返事をした時だ。
良くない返事の時は…命の危険を感じる。
もちろん、ただでやれるようなか弱い性格ではないけれど。
「大丈夫。君の嫌がる事はしないから」
そう答えながら頬に触れる指先が―――こう言っては何だけど、他の誰にも見せないような…優しさを帯びているから。
コロリと転がってしまいそうな心を何とか押し戻し、自分自身の心と冷静に向き合う。
きっと―――もう、答えは出ている。
それを口にできないのは…何故なんだろう。
「…まだ、時間が必要かい?」
「………」
「曖昧な答えはいらない。好きか、嫌いか…二つに一つでいい」
寧ろ曖昧な答えを許してくれるなら、すぐに答えられるのだが。
求める答えが二つに一つと言われてしまえば、そのどちらも持っていない私には何も言えなくなってしまう。
答えに困って口を噤む私に、ヒソカは一瞬、その表情から笑みを消した。
「…わかったよ」
見えた表情が、諦めに見えて。
咄嗟に、離れていく彼の腕を掴んだ。
するりと筋肉質な首元に腕を回し、彼との距離をゼロにする。
「嫌いじゃないのよ。ただ…わからないけれど、まだ言えないの」
悪い意味で口を噤んでいるわけではないのだと。
肝心な言葉は言えないけれど、誤解を与えたくはないから、言葉を紡ぐ。
「わかってる。待つよ、ちゃんと聞けるまで」
私をへし折ってしまう事だって簡単な腕力を持つその腕が、割れ物に触れるように優しく、背中に絡みつく。
その力加減がどうにもくすぐったくて…嬉しかった。
ヒソカ / Carpe diem