021.夜の帳が去れば、あなたとわたしは敵同士
“私”を探し求めるクラピカの姿が、嬉しくなかったと言えば嘘になる。
同胞だからと言うよりは、人間として彼が好きだったから。
けれど、同時に胸を締め付けたのは、彼に対する罪悪感。
背中の蜘蛛がざわめき、もう戻れないあの頃の記憶を切なく呼び覚ました。
揺れる船の上。
夜空には星が輝いていて、甲板に人影はない。
こんな時間なんだから無理はない、と苦笑して空を仰いだ。
ふわりと偽りの髪を撫でる夜風が心地良い。
「―――、」
ふと、近付いてくる気配を感じ取った。
それが出来るようになったのはクロロのお蔭だなと苦笑い。
気配の主が、戸惑うように足を止め…やがて、私の隣へと並ぶ。
「あなたも起きていたの?」
「あぁ…眠れなくて」
「明日に差し支えない?」
「大丈夫だ。…眠れないのは慣れているから」
長くない金髪がさらりと揺れた。
そう、と頷き、彼から視線を外す。
村は山奥にあったから、こんな風に船に乗った事はなかった。
けれど、こうして二人で並んで夜空を見上げた事はある。
何となく、その時の事を思い出した。
「昔…」
不意に、唇を動かすクラピカ。
その声に耳を傾けつつも、視線は星を見上げたままだ。
「こうして、星空を見上げた事がある。彼女はとても聡明で、星座や占星術など、彼女には知識の壁など存在していないかのように…私に色々な事を教えてくれた」
懐かしむような声色のクラピカの声に、何も言わずに目を細める。
知識の壁なんて、すぐ傍に存在していた。
あの頃は…素直に聞いてくれる彼が可愛くて、教える事を楽しんでいただけ。
「…すまない。こんな話を聞かせて」
「いいえ、気にしないで。…また、一緒に星を見上げられるといいわね」
我に返ったのか、クラピカが視線を落とすのを気配で感じた。
彼に告げた言葉は、私の本心に違いない。
もう休んだら?の一言が口にできない。
お互いに、この空気を壊したくないと考えていたのだろう。
この夜が明ける時―――私は、彼の敵になる。
せめてもう少しだけ、懐かしい彼の隣で、優しい記憶に満たされていたかった。
クラピカ / Ice doll