020.あの花が咲く頃、もう一度君に
恐怖の対象でしかない風紀委員の黒い学ラン。
腕を通さない袖を風に靡かせる姿を見ては、その牙が自分に向かないようにと小さく身を縮めたものだ。
そんな昔の恐怖を思い出すと、それと同時に、彼女の姿も思い出す。
同じ学ランでありながら、女性らしい繊細さを併せ持っていた彼女。
あの雲雀さんに物申す事の出来る、唯一の人。
尊敬が憧れに変わり、それが恋だと気付いた時には、彼女は並盛から消えていた。
卒業の日、かつて桜の下で見た彼女の姿が忘れられず、その場所に立って緋色の花を見上げた。
そして、いつの日か…この花が咲く頃、また君に逢えたらと…淡い期待を、母校に残して。
卒業した母校で教職に就くと言うのは、不思議な感覚だ。
懐かしい校舎を歩き、最後に あの日と同じように、桜の元へと向かう。
そして、満開の桜の下に、その姿を見つけた。
「あら…」
足音に気付いたのか、彼女が振り向く。
学生服ではなく、大人っぽい服装に身を包み、美しく成長した彼女が、そこにいた。
夢を見ているのだろうかと、何度も瞬きをする。
「こんにちは。新任の先生?」
「は、はい!」
「そうですか」
桜が叶えてくれた奇跡なのかもしれない。
なけなしの勇気を振り絞り、その名を呼ぼうと息を吸う。
「―――」
しかし、その声を発する前に、彼女の方から軽快なメロディが流れた。
慣れたように携帯を取り出した彼女が、電話口に向かって「はい」と答える。
「ええ、もう来ているわ。すぐそっちに行くわね」
桜から離れた彼女がこちらに向かって歩いてくる。
電話をしたままの彼女は、すれ違う直前にそれを耳元から離した。
「これから頑張ってくださいね、先輩」
笑顔のエールを残し、彼女は歩いていく。
急いで振り向いた時には、その背中は既に遠い所にいた。
その向こうに、同じく携帯を持つ雲雀さんの姿を見つける。
やはり、彼女は今も彼と一緒にいるのか―――何となく、納得できてしまった。
「………覚えてくれてたのか…」
二人の姿が消えて、その場にしゃがみ込む。
嬉しさ…そう、これは、嬉しさだ。
かつての恋を成就させる事よりも、彼女の記憶の片隅に存在していた事の方が、嬉しいと感じた。
「…よし!頑張るか」
彼女からのエールを胸に、小さく拳を握る。
黒揚羽