016.鮮やかな世界
望むものと言うよりは、必要なものは全て与えられる生活だった。
私から何かを望まなくても、常に全てが揃っている世界。
そこにない物は、必要のないものなのよ、と言った母の声を、今でも覚えている。
父を説得し、白哉様に反対されず。
そうして無事、五番隊へと入隊する日がやってきた。
緊張したあの日から、もう一年の月日が過ぎようとしている。
家の外は、色彩に満ちた世界だった。
望むものには手を伸ばさなければならないのだと知ったのは、この世界に来てからだと思う。
何がきっかけだったのか…ふとした時に、藍染隊長にその事を話した。
普段の私だったならば、そんな事は絶対口にしなかったはずなのに、彼の優しい空気が、貴族としての壁を優しく崩してくれた。
「君は、ちゃんと知っていたはずだよ。ここで刀を握っていると言う事は、そう言う事だ。護廷への狭き門を通ってきた君は、ちゃんと望むものを得るための努力をしてきたはずだ」
彼は、そう言って微笑んだ。
誰にも見せなかったはずの姿を、彼はこの場にいる私を見るだけで察してくれていた。
この人の率いる隊に入って、幸せだと思う。
「白哉様」
「…修行か?」
「はい」
「そうか。相変わらず熱心な事だ」
偶然出会った白哉様。
その表情が、邸にいる時よりも穏やかだと感じるのは私の気の所為ではないだろう。
この人もまた、死神としての自分に感じるものがあるのだと思う。
それは、朽木家の次期当主と言う肩書には、必ずしも相応しくないのかもしれない。
「死神としての生活は…どうだ?」
「充実しております。世界がこんなにも広い物なのだと…恥ずかしながら、それを実感する日々です」
「…そう、だな」
考えるように結ばれる唇。
彼の心中を察する事は出来ても、自分にできる事など高が知れている。
木刀を片手に、私は彼に向けて微笑んだ。
「お時間があるなら、ご一緒にいかがですか?」
「…ああ。手合せ願おう」
今はただ、朽木と言う名が、彼の重荷にならぬことを祈るばかり。
朽木 白哉 / 睡蓮