011.最後の一線だけは越えさせない

「…逃げるなよ」
「………ガンバリマス」

そんな会話をしたのが、5分前。

「………やっぱり駄目!!待ってッ!!」

彼女が悲鳴にも似た声を上げた回数は、既に5回。
彼女が慣れていないことくらいはわかっていたし、無理強いをするつもりはない。
…ないのだが…いい加減、寸止めもキツイ―――色々と。





「…やめるか?」

そう問いかけると、彼女は首を横に振る。
嫌なわけではないことくらいは百も承知で、それでも問う意味を彼女は理解しているのだろう。

「別に今じゃなくてもいいんだぞ?」
「今じゃなかったら一生逃げそうな気がする…」
「……………そうか」

今を逃して逃げ続ける彼女がありありと想像できてしまった。
別にそれでも構わないとは思うけれど、困る部分ももちろんあって。
彼女には気の毒だが、頑張ってもらうしかないらしい。

「…嫌なわけじゃないの。でも、その…は、ずかしくて…っ」
「………あぁ、わかってる」

控えめに袖を握る彼女の手を、上から包み込む。
顔をこれ以上ないくらいに赤くして緊張で震える彼女を、どうして責める事などできようか。
覚悟を決めるその時まで、何時間でも待ってやろうと思った。

「まぁ、キスの一つでそこまで恥ずかしいと思える所はお前らしいがな」
「だって…っ」
「こうやって抱きしめられるのは恥ずかしくないのか?」
「これは全然。ぎゅってしてもらうの好きだから」
「…………」
「…ローさん?」
「気にすんな。こっちの事情だ」

最初の一線でこれでは、最後の一線を超える時には恥ずかしさで消えてなくなりそうだな、と思う。
心底嬉しそうな表情で隙間なく擦り寄る彼女に、小さく息を吐き出した。
我慢する身も楽じゃない。

トラファルガー・ロー / Black Cat

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11.03.30