008.しあわせの中に溶けてしまいたい
冬の朝と言うのは、どうにも布団から出るのが辛い時期だ。
体温で程よくあたたまった布団は、かすかに浮上した意識を眠りへと誘う。
下手をすれば二度寝をしてしまいそうな自分を理性でもって奮い立たせ、ゆっくりと瞼を開いた。
視界の霞みを取ろうと二・三度瞬きをすると、それに伴って徐々に頭も覚醒してきた。
慣れた室内が横たわる世界には、障子越しの優しい朝日が差している。
さて、起きようかと身体を動かしたところで、思うように動けないのはいつもの事だ。
その原因である彼の腕の中でくるりと姿勢を変える。
「政宗様、朝ですよ」
寝起きはそう悪くないのだが、彼は起きない。
起きようとしない、と言った方が正しいだろう。
少し咎める色を含ませて、政宗様、と呼べば、背中に回った腕に力が込められた。
当然、ほんの少しだけ開いていた距離がゼロになる。
彼の胸元へと頬を寄せてしまえば、感じるのは自分の肌に馴染む彼の体温。
一晩中ここに居たのだから、馴染むのも当然と言えるだろう。
溢れるほどの安らぎを感じられる場所へと誘い込まれてしまえば、欲望がひょこりと頭を覗かせる。
駄目だとはわかっているけれど…この腕の中は、優しすぎるのだ。
「今から寝たら起きられませんよ…?」
心なしか、その声が小さくなっている。
自分でもそれを理解していて、思わず苦笑が零れた。
「急ぎの予定はなかっただろ」
掠れた声が鼓膜を震わせた。
寝起きには違いないけれど、意識はしっかりしているとわかる声だ。
その言葉に、今日の予定を確認する。
確かに、火急の報せが届かない限りは、比較的自由な日だ。
その答えに行き着いた事に気付いたのか、それとも偶然か。
彼は小さく笑うと、そっと髪に触れた。
「少しくらい寝過ごしてもいいだろ?」
「…きっと、少しにならないと思いますけど…」
いいと言う事にしましょう、と答え、抗うのをやめた。
頭の下に差し込まれた腕が優しく抱き寄せてくれるのに合わせ、身体が疲れない位置を探る。
そうして見つけた場所に落ち着くと、そのまま瞼を閉じた。
伊達 政宗 / 廻れ、