005.その想いを手繰り寄せて
「っうわ!!」
きゃあ、なんて可愛らしい声が零れるとは思っていなかったけれど、随分とまぁ男らしい声だ。
それが彼女らしい気がして、くくっと肩を揺らす。
押し殺した笑い声に気付いた彼女が、首だけを振り向かせて唇を尖らせた。
「もう!なんなの、シャンクス!」
危ないじゃない、と咎めるのも無理はない。
甲板の縁に座り、空を見上げていた彼女の背中を見つけたのは数秒前。
ふとした思い付きで、足音を潜めてその背中に近付き、勢いよく彼女を腕の中に引きずり込んだ。
無防備な背中は驚くほどあっさりと、シャンクスの腕の中に納まった。
「こんなところで無防備なお前が悪いんだろ?」
「船の上で無防備になっちゃ駄目なの?」
船がホームなんだから、別に問題ないよね。
首を傾げる彼女に、それはそうだと納得する。
「いや、別に無防備だろうと構わねぇんだがな。海軍に追われてるわけでもねぇし」
「じゃあ、なんで駄目なの?」
「………なんでだろうな?」
ことりと首を傾げる彼女と同じように首を傾げてみる。
彼女のように可愛らしくはないと自覚しているが、そこまで嫌そうに顔を顰めなくてもいいだろうが。
「変なシャンクス」
そう言うと、彼女は小さく笑ってから、もう一度海の方を見るように姿勢を変えた。
相変わらず背中から抱きしめられているけれど、そこを抜け出すつもりはないようだ。
もちろん、離すつもりもないシャンクスがあと一歩彼女へと近付くと、当然のように背中を預けてくる。
即席の背もたれは、思っていた以上の安心感を与えてくれた。
「さっきから何を見てるんだ?」
「んー…もういないんだけど…船と並走する…たぶん、イルカ?」
「何でたぶんなんだよ」
「や、何か…すごい勢いで逆走してたから、自信なくて」
「………」
「………」
「…ま、“偉大なる航路”だからな」
その一言で片付いてしまう海だと理解している二人は、それ以上深くは考えない事にした。
シャンクスは、こつん、と彼女の頭に顎を置き、同じ風景へと目を向ける。
あの雲がどうだとか、あそこだけ海の色が違うだとか。
些細な事が、新鮮だと思える時間。
かつて少年だった頃、シャンクスもまた、彼女のように小さな事に喜び、些細な事に感動した。
「どうしたの?」
「ん?」
「何か…楽しそう」
「そーだな。お前と一緒だと、見える風景まで違ってくるな」
「何それ」
同じなのに…変なの、と言いながらも、彼女もまた、嬉しそうに笑う。
昔に置いてきた小さな感動を思い出す日々は、シャンクスにとって、とても大切だと思えた。
シャンクス / Black Cat