003.肩越しに、そっと

―――そんな事もわからないなんて、馬鹿じゃないの?

昔なら聞き流せた言葉が、しつこく頭の中に居座っていた。
機嫌が最悪な状態の私は、傍から見ると近寄りがたい状況らしい。
仲の良いクラスメイトすらも、触らぬ神に祟りなしとばかりに遠巻きな視線を向けてくる。

「…機嫌、悪いな」
「そう?」
「あんたが屋上でサボってること自体珍しい」

怒らねぇし、と呟く柾輝に、確かにそうかも、と思う。
サッカー部を再建すると決めた以上、襟元を正せと言った私に、彼らはそれなりの努力を見せた。
それでも、やはりサボり癖が抜けない彼らに怒りを露わにするのも、珍しくはない。

「…偶にならいいわよ。息抜きは必要だから」
「………そう言う所が珍しいんだって。―――で、原因は翼か?」

柾輝の言葉に口を噤む。
それが答えになると理解した上で、質問には答えなかった。

「…翼にとって、私はいつまで経っても成長しない子供な幼馴染ままなのね」
「………何があったんだ?」
「ちょっと不良ともめただけよ。ちゃんと話し合いで解決したのに、翼には不満だらけみたい。ただの幼馴染に色々と手を出されるのがそんなに嫌なのかしら」

やや突き放すような物言いだったかもしれない。
その時の私は頭に血が上っていて、そんな事には考えが回らなかったけれど。





雪耶の話を聞いて、何を言ってんんだ、と呆れた。
翼にとって雪耶は“子供な幼馴染”でも、“ただの幼馴染”でもない。
傍から見ていればすぐに気付くのに、何で本人は気付かないのか。
口で伝えるのは簡単だが、いずれ自然と寄り添うだろう二人に口を挟むのは野暮ってもんだ。
さて、どうフォローするか…そんな事を考えたところで、雪耶の肩越しに屋上の扉が開くのが見えた。
そこから姿を見せた小柄な影に、小さく笑みが浮かぶのを感じる。
口は出さないが、不器用なセンパイに、少しだけ。





スッと柾輝が腰を屈めてきた。

「翼と話し合ってみたらどうだ?」

吐息が触れそうな距離で、彼が不敵に微笑む。
何もこんな風に近付かなくても聞こえるのに、と思ったところで、腕があらぬ方向から引っ張られた。

「柾輝」

姿勢が崩れ、背中から何かにぶつかる。
ぶつかったそれの発した声により、それが誰なのかを悟った。
首だけを動かせば、私でもそうそう見ない程に怒った表情の翼が、そこにいた。
鋭く睨み付ける翼に、柾輝はひょいと姿勢を戻して「わかってる」と笑う。
そして、翼の肩をポンと叩いて、そのまま歩き出す。
肩越しにそっと振り向くと、頑張れよ、とばかりに彼が片腕を上げるのが見えた。

彼の考えが見えない。
それ以上に、真後ろで機嫌悪く唇を結ぶ翼の考えが、わからなかった。

椎名 翼 / 夢追いのガーネット

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11.03.18