001.君が傍にいてくれる、それだけで

何の説明もなく連れてこられた屋上。
流川が私の膝を枕にして、すやすやと心地よさ気に眠り出してから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
チャイムの音は聞こえないから、一時間は経っていないはず。
頭の片隅でそんな事を考えながら、小説の1ページを捲った。

何か会話があるわけではない。
けれど、居心地の悪さはなく、穏やかな時間だけが過ぎていく。
きっと、授業をさぼった事を怒られるだろうけれど…それも、気にならなかった。





さらり、さらり。
爽やかな風が吹き、揺れた髪が目元をくすぐる。
その感覚に、流川が小さく身じろぎした。
薄く目を開くと、そこに見えたのは真っ青な空。
そして、本の表紙と、その向こうに真剣な表情の彼女。
こうして有無を言わさず屋上に連れ出して、自分とは違って真面目な彼女に授業をさぼらせて。
何十分も拘束していると言うのに、彼女はそれを咎めた事はない。
「テストで苦労するよ」と苦笑する事はあるけれど。

真剣、とは少し違う表情の彼女。
目線が上から下へ、そしてまた上へと動くのを見て、自分が起きている事に気付かず読書に集中しているのだと悟る。
気付かせたいような、もう少しこのまま彼女を見ていたいような。
そんな感情が右へ左へと傾き、揺れ動く。

あぁ、そうか。

不意に、納得した。
自分が彼女に声をかけないのも、彼女が自分の行動を咎めないのも。
元を辿れば、同じなのだ。
今この時間が心地良いと…手放したくないと感じている、ただそれだけ。
例え言葉に出さなくても、この想いは共有されていると感じた。

「―――」

声を出さず、唇を動かして彼女を呼ぶ。
当たり前だが、気付かずに本に視線を落としたままの彼女。
少しの間その表情を見つめ、やがて静かに目を閉じた。

流川 楓 / 君と歩いた軌跡

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11.03.16