099.自分を押し殺す事で幸せになれるのなら、そんなものはいらない

「君はどうしてここにいるんだろうね?」

ふにふにとマシュマロを指先で遊ばせながら、白蘭様はそう笑った。
言葉の意味を理解できなかった私は、は?と間の抜けた声を零す。

「それは…半ば、あなたに拉致されたようなものだと記憶していますけれど」

呟く言葉に、そう言えばそうだね、と変わらぬ笑顔を見せる彼。
このような言葉遊びは日常茶飯事だけれど、今回はどんな思惑がその裏に隠されているのだろうか。

「―――ここから出たい?」

白蘭様の言葉に息が詰まる。
ひゅ、と喉が奇妙な音を立てた。
彼の言葉が指す“ここ”の意味を、正しく理解したから。

「僕さ、自分の進む道は結構自信を持ってるんだよね」
「…そう、でしょうね」
「うん。でも…やっぱり、ある程度不測の事態って奴も考えてるんだ」

何も語らない彼が語る言葉。
どこまでが本気なのだろう、と嫌な音を立てる心臓を、彼に気付かれないよう押さえる。

「君が幸せになれる場所は、ここじゃないのかもしれないね」

私の中の何かが、砕ける音がした。

「………ここでなければ、私は“私”ではいられません」
「…でも、幸せになりたくない?」

普段は自分の思うままに強引で我侭なのに、こう言う時だけ優しさを垣間見せる。
まるで、子どものような不安定な人だった。

「進む先にどんな未来があろうと、私が生きる場所は…“ここ”です」

数歩の距離を詰めて、そっと彼の頬に触れる。
少し低めの体温が、彼が子どもではない事を教えてくれた。

「…不思議な子だね。幸せになりたくないの?」
「自分が不幸だと思った事はありませんから」
「…後悔しない?」
「ええ。もう、選んでしまっているんです」

彼に返す表情は苦笑ではない。
今の私の表情は…とても、穏やかな物だろう。
私の言葉に、嘘偽りは一つだって存在しないのだから。

「…そっか」
「はい」
「もう二度と聞かないよ」
「当然です」
「じゃあ、手始めに―――」
「デスクの上の書類を片付けてくださいね」
「………手厳しいね」
「その後でお茶を用意します。良い茶葉が手に入りましたから」
「…飴と鞭…」

白蘭 / 百花蜜

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11.03.14