097.君と二人なら何処までも行ける気がした
見上げた空が、いつもより近く感じた。
手を伸ばせば届くような気がして。
標高の高い山。
気候としては安定していて、それほどの寒さはない。
歩行に支障が出るほどの急な勾配ではないけれど、それでも平原よりは疲労が蓄積される。
こまめに休息を取りながら、一行は山の向こう側へと向かっていた。
「何を見てるの?」
休憩途中、隣に座った彼がそう問いかける。
私は見晴らしの良い所に腰を下ろし、風景を楽しんでいた。
まるで世界を一望していると錯覚するような、広さ。
ずっと向こうまで広がる平原の向こうに、コバルトブルーが見えた。
きっと、海があるのだろう。
「あれは…海?」
「…そうだね。海の向こうは確か―――」
聞き慣れない地名と、簡単な説明をしてくれる。
沢山学んだつもりでも、世界はまだまだ広い。
知らない事ばかり、と微笑みながら、頬に風を受けた。
「世界は広いわね」
「あぁ、そうだね」
「…私ね、夢だったの」
ぽつりと呟く。
叶わないと思っていた、夢。
「全身で風を感じて、自分の足で旅をして…ずっと、叶わないと思っていた。城から出る事すら、難しかったから。だから…正直、これが夢なんじゃないかって思う事もあるわ」
「夢じゃないよ」
ほら、と差し出された手。
その意味を理解できず、とりあえず自身の手を重ねてみる。
それは正しい行動だったようで、彼はその手をぎゅっと握ってくれた。
手の平から伝わる熱、そして、紋章の鼓動。
その感覚が、これが夢ではなく現実なのだと教えてくれていた。
「…ええ、そうね…夢じゃない」
「いつか、世界を旅しようか」
「どこまで?」
「どこまでも。行けるところまで行ってもいいし…気の向くまま、風の向くまま」
世界は広いよ。
そう言った彼のバンダナを、風が弄んでいく。
「…楽しみにしているわ」
「うん、楽しみにしてて」
二人だけの、小さな約束。
それを知っているのは、二人の間を吹きぬけた風だけだ。
1主 / 水面にたゆたう波紋